最新記事

香港の挽歌

香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか

‘NOBODY CAN SAY NO TO BEIJING’

2020年7月7日(火)11時20分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

国家安全法に抗議する香港住民 AM YIK-BLOOOMBERG/GETTY IMAGES

<国家安全法の導入で破綻への秒読みが始まった、自由都市・香港の繁栄と一国二制度──次のターゲットはどこか? 本誌「香港の挽歌」特集より>

今年の6月4日、香港のビクトリア公園にはほとんど人影がなかった。昨年とは大違い。一昨年やそれ以前にも、こんな光景はなかった。
20200714issue_cover200.jpg
30年という歳月のせいではない。1989年のこの日に北京の天安門広場で民主化を求める無数の人々が中国共産党の手で虐殺されて以来、香港市民は毎年、この公園に集まって抗議の意思を表してきた。

中国側は、あの事件を何としても歴史から抹殺したい。それでも従来は、特別行政区である香港とマカオでの追悼式典は黙認してきた。しかし今年は違った。新型コロナウイルスの感染防止を口実に、当局はビクトリア公園での集会を禁じた。

暗い時代のひそかな足音を、香港の民主活動家は感じ取っている。香港では昨年、犯罪容疑者の身柄を中国本土に引き渡せる「逃亡犯条例改正案」をめぐって大規模な抗議行動が起きた。そのため条例案は撤回されたが、今度は中国政府が直接、香港政府の頭越しに動いた。市民の抗議にも国際社会の非難にも耳を貸さなかった。もはや香港における自由は風前の灯火だ。

去る5月、中国政府は反体制派の活動を取り締まる国家安全法を香港にも適用すると決定した。この方針は直ちに全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)で採択され、盛大な歓声が上がった。そして6月30日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は同法に署名し公布。香港政府は同日夜に施行した。香港市民がいくら街頭に繰り出しても、抗議の声は本土に届かない。

苦難は香港だけにとどまらない。中国政府の発言を額面どおりに受け取らない人なら誰もが、この鉄面皮の専制国家が超大国への歩みを止めることはなく、香港の次は台湾、そしていずれは他の国々をものみ込むだろうと警戒を強めている。

magSR20200707hongkong-sashikae.jpg

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

香港立法会(議会)選挙を9月に控えるなかで施行された香港国家安全維持法は、分離独立や政権転覆、テロ活動や外国勢力の干渉を厳しく排除するものだ(既に一部の活動家はテロリストの烙印を押されている)。1997年の香港「返還」時に交わされた中英共同宣言は、香港における「一国二制度」の維持を50年にわたって約束した。だが国家安全法の適用はその前提を覆し、民主主義と資本主義の存続を脅かす。

民主派政党「香港衆志(デモシスト)」の共同創設者で、2014年の「雨傘運動」のリーダーの1人だった羅冠聡(ネイサン・ロー)は本誌に、国家安全法は「一国二制度を瓦解させる」ものであり、「あらゆる反体制派の口を封じる」という中国政府の決意の表れだと語った(羅は香港衆志からの脱退を表明)。

【参考記事】香港危機:台湾の蔡英文がアジアの民主主義を救う

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中