最新記事

環境

新型コロナに水銀汚染 アマゾン「ゴールドラッシュ」で不法採掘者が急増

2020年7月4日(土)13時31分

ブラジルの先住民族ヤノマミ族が暮らすアマゾン熱帯雨林の中心部で過去5年間、違法な金の採掘が急増している。写真は取材で訪問した記者に踊りを披露するヤマノミ族。2012年9月、ブラジルから19キロベネズエラ側に入ったアマゾナス州で撮影(2020年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)

ブラジルの先住民族ヤノマミ族が暮らすアマゾン熱帯雨林の中心部で過去5年間、違法な金の採掘が急増している。衛星画像による独自データをロイターが分析した結果、明らかになった。

民族は南米の先住民族の中では最も人口が多いが、外界からかなり隔絶された環境に住んでいる。ベネズエラとの国境近く、ポルトガルほどの大きさの保護特別区域に2万6700人以上が暮らす。


彼ら、彼女らが数世紀前から暮らしてきた原生林の地下には、金を含む貴重な鉱物資源が眠っている。

ここ数十年というもの、金を求める非合法の探鉱者らがこの地に引き寄せられ、森林を破壊し、河川を汚染し、死に至る病を持ち込んだ。

ヤノマミ族と地元当局者の推計によると、ここでは現在、2万人を超える非合法探鉱者が活動している。2018年、アマゾンを経済開発し、鉱物資源を採掘すると公約する極右ボルソナロ大統領が就任して以来、その数は増えた。

大統領府にコメントを要請したが、返信は得られなかった。

ヤノマミ族の特別区域を写した衛星画像をロイターが分析したところ、過去5年間で非合法の採掘活動は20倍に増えている。主な活動地域はウラリコエラ川とムカジャイ川沿いで、合計すると約8平方キロメートル、サッカー競技場1000個分を超える。

ロイターは衛星画像を分析する非営利団体アースライズ・メディアと協力して作業を行った。

採掘の規模は小さいが、環境に壊滅的な影響を及ぼしている。樹木と居住環境は破壊され、砂岩から金を分離するのに使う水銀が川に流れ、水を汚染し、魚を介して地域の食物連鎖に入り込む。

18年に公表された調査結果によると、ヤノマミ族の村落の中には、住民の92%が水銀中毒に苦しんでいるところもある。この中毒は臓器を傷付け、子どもの発育障害を引き起こすことがある。

採掘者は感染症も持ち込む。

1970年代、ブラジルの当時の軍事政権がアマゾン川北部の熱帯雨林を抜ける幹線道路を建設した際には、ヤノマミ族の村落が2つ、はしかとインフルエンザにより壊滅した。

その10年後、「ゴールドラッシュ」でマラリアと、武器を伴う小競り合いが持ち込まれた。

そして今、新型コロナウイルスがヤノマミ族を脅かしている。研究者や人類学者、医者のネットワークによると、今週までに確認された感染者は160人を超え、死者は5人に及ぶ。

フトゥカラ・ヤノマミ協会のダリオ・ヤワリオマ副会長は電話でインタビューに応じ、「この死のウイルスを、われわれの社会に持ち込んだ主な経路が非合法探鉱者だ」と言う。「大勢やってくる。ヘリコプターや飛行機、ボートで到着し、われわれは彼らが新型コロナに感染しているかどうか知るよしもない」

ヤノマミ族のような先住民は、一つ屋根の下に多ければ300人が一緒に暮らし、食べ物から調理器具、ハンモックまで共有する集団的な生活様式のため、対人距離確保は実質上、不可能。ウイルスは特に脅威だ。

ヤワリオマ氏によると、新型コロナの感染が流行したため、政府の先住民対策機関である国立先住民保護財団(FUNAI)はそれ以来、特別区域を訪れていない。FUNAIからコメント要請への返信は得られなかった。

ブラジル軍は探鉱者の侵入阻止を試みたことがあるが、兵士が去るとすぐに探鉱者が戻ってくるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中