最新記事

中国

中国を批判すれば日本人も捕まるのか?──香港国安法38条の判定基準

2020年7月17日(金)17時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その類の運動をしていなければ、すべてセーフである。

香港の日系企業関係者の心配

在香港日本国総領事館やJETROなどが在香港の日系企業(598社)を対象に7月に行った調査によれば、香港国安法に関し8割超が懸念を示していることがわかった。すなわち、香港国安法に関して、「大いに懸念している」または「懸念している」を合わせると81.4%に上り、情報に制限がかかるおそれや、「法の支配」「司法の独立」が失われるおそれ、さらに、アメリカの制裁措置や米中関係の悪化を招きかねないことなどが理由としてあがっている。

また今後、「香港からの撤退や規模縮小、拠点機能の見直しを検討している」もしくは「今後検討する可能性がある」と回答した企業は、あわせて36.7%に上っていて、香港でのビジネス活動に対する不安が大きくなっていることが窺われる。

しかし、前項で記した「判定基準」さえ頭に入れておけば、そこまで神経質にならなくても大丈夫ではないだろうか。

ポンペオの「全ての国への侮辱」発言に中国は「痴人のたわごと」と酷評

7月1日、アメリカのポンペオ国務長官は1日、香港国安法は「全ての国への侮辱」と発言した。さらに、「第38条は海外での違法行為にも適用され、アメリカ人も含まれる公算が大きく、言語道断だ」とした上で、「自由な香港は最も安定し裕福で活力に満ちた都市の一つだったが、もはや共産党支配の都市でしかない」と断言。今後は香港に対する優遇措置撤廃に向けたトランプ大統領の指示を実施していく」と述べた。つまり「香港を中国本土と同様に扱う」ということだ。

これに対して中国共産党の管轄下にある中央テレビ局CCTVは「ポンペオ発言は『痴人説夢』に等しい」と激しく反論している。

この「痴人説夢」は「痴人が夢で何か言っている」=「痴人のたわごと」という意味で、アメリカを攻撃する時に選択する言葉が、だんだん北朝鮮並みになっているという印象を与える。それを叫ぶときの女性キャスターの表情も「憎き敵をやっつけるぞ!」という臨戦モードだ。

こんな時に日本では自民党の二階幹事長が習近平国賓招聘中止を求める自民党議員らの決議に激怒したり、二階幹事長の覚えがめでたくないと「次期総裁になれない」と恐れる石破議員が習近平国賓招聘に賛同する意思を表明したりなどしているのだから、日本の政界も、ポンペオ批判の際にCCTVが選択した言葉に近い状況になりつつあるのではないだろうか。

そのことを憂う。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州株STOXX600の予想引き下げ、米関税で=ゴ

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ワールド

ミャンマー地震の死者2719人と軍政トップ、「30

ビジネス

独製造業PMI、3月改定48.3に上昇 約2年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中