インドネシア、汚職捜査官襲撃事件 被告の2警察官に求刑以上の実刑判決
裁判では軽い禁固1年を検察が求刑
裁判では2被告は全面的に起訴事実を認めて争う姿勢をみせず、6月11日に行われた検察側の論告求刑では捜査への協力姿勢や警察での勤務評定が評価され、また襲撃は顔面を狙ったものではなく「たまたま顔面にかかった結果」などの被告側言い分を考慮したとして「2被告に禁固1年」という実に軽い求刑となった。
この求刑にマスコミなどは「汚職捜査官に失明という重傷を負わせて求刑1年とは、出来レースに違いない」と疑問を呈し、これに世論も沸騰。この日の判決公判の行方が注目されていた。
2被告への判決が検察側の求刑を上回ったことについて裁判長は「2被告は警察への国民の信頼を著しく損なわせた」と述べた。しかし「求刑通りの禁固1年という軽い刑では、世論が再び沸騰する可能性もあり、司法としての立場を強調するという裁判官の配慮ではないか」(地元紙記者)との見方が有力で、長年言われている「インドネシア司法の腐敗」が依然として現存していることを国民に強く印象付ける判決となった。
判決後、2被告は判決を受け入れて控訴しない方針を明らかにしている。判決によると2被告は未決拘留期間が算入されることになるため、実際には刑期より早く釈放されることになる見込みだ。
「裁判は終始茶番」と捜査官
襲撃事件の被害者で現在も「隻眼の捜査官」として活躍中のノフェル捜査官は、判決公判を前にして「被告の2警察官が実行犯でないことは明らかであり、直ちに釈放されるべきだ」と述べ、被害者が加害者の釈放を求めるという異例の展開となっていた。
16日の判決を聞いたノフェル捜査官は地元マスコミに対して「裁判は実際の事実に基づかないで進められるなど終始茶番劇であった。これで全て幕引きになるということは汚職事件とその汚職事件捜査に対するインドネシアの司法、国家の姿勢が問われることになる」と不服を明らかにしている。
ジョコ・ウィドド大統領は「インドネシアの司法を信じる」として初公判以来司法に介入するのを避ける姿勢に終始している。今回の裁判、判決は2警察官が逮捕された当時から言われてきた筋書き通りに進行しており、国民の間からは「事件の本当の黒幕はこれで永久に暴かれることがなくなった」と司法、警察への不信をさらに強めている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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