最新記事

中東

イラン革命防衛隊のミサイル開発に新事実 アルミ粉末計画の内幕

2020年6月26日(金)12時48分

イランのミサイル開発計画を所管する革命防衛隊の広報室は、ロイターの質問に回答しなかった。ムハンマド・テヘラニ・モガダム司令官にもコメントを求めたが、回答はなかった(計画の詳細を明らかにした元当局者アミル・モガダム氏と司令官は、同姓ではあるが無関係)。ハメネイ師とロウハニ大統領いずれのオフィスからも回答はない。

アミル・モガダム氏がアルミニウム粉末の生産計画を明らかにしたことで、米国政府はイランのミサイル開発に関する調査を強化する可能性がある。現在フランスに住む同氏は、一部の政府官僚による汚職を告発したところ、社会不安を煽ったと非難され、18年にイランを離れた。アルミニウム粉末の生産計画を暴露しようと決めたのは、イランのミサイル開発の野望は国民の利益にならないと考えためただという。

米国はイランに広範な制裁を科している。金属類の生産や弾道ミサイル開発計画も対象で、アルミニウム製造や関連取引の制限も含まれている。革命防衛隊そのものや、革命防衛隊と取り引きしたり支援をする第三者も制裁対象だ。制裁の運用に当たっては、米財務省が中心的な役割を果たしている。

軍事目的のアルミニウム粉末生産が制裁違反に該当しうるか財務省に問い合わせたところ、報道官は「潜在的に制裁対象となりうる行為についての報告はすべて真剣に受け止めている」と回答。調査を行う可能性についてはコメントしなかったが、「我々の管轄範囲内で、イランの現体制と世界各地における彼らの悪質な行動を支援する者を制裁対象とすることにも注力している」と述べた。

国連は、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルに関するイランの活動については制裁対象としている。国連の報道官は、アルミニウム粉末生産活動が制裁違反に相当するかどうかは明らかではないと回答した。

爆発性の物質

ロンドンのシンクタンク、国際戦略研究所のマイケル・エルマン氏は、固体燃料ミサイルの推進剤に使うアルミニウム粉末を内製できるようになれば、サプライチェーンと品質を管理しやすくなると指摘する。

ロイターが検証した文書によると、ジャジャームの施設を運営するのはイラン・アルミナ・カンパニー(IAC)。IACは国営の鉱山・金属持株会社であるイラン鉱山鉱業開発機構の子会社だ。

IACがロイターの質問に回答することはなかったが、同社のホームページには、ジャジャームの北東約10キロに位置する施設群でボーキサイト鉱床とアルミニウム生産施設を運用していると記載されている。ボーキサイトを処理して得られるアルミナが、アルミニウムの原料となる。そのアルミニウムから粉末が作られる。

アルミニウム粉末は、塗料や電子部品、太陽光パネル、花火といったさまざまな製品に使われる。爆発性の物質であるため、ロケットやミサイルの発射に使う固体燃料推進剤の主要成分でもある。酸素を含む物質と混合すると、膨大なエネルギーを放出する。

英政府は2010年、調達物品を軍事転用する可能性があると思われるイラン企業のリストにIACを登録した。イラン企業との取引を考えている商社に対し、輸出許可を申請が必要になるかもしれないと警告するためのリストだ。リストは17年、国連と欧州連合(EU)がイランへの制裁を解除したことで撤回された。


【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・東京都、新型コロナウイルス新規感染48人を確認 今月5度目の40人超え
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルーマニア大統領選、12月に決選投票 反NATO派

ビジネス

伊ウニクレディト、同業BPMに買収提案 「コメルツ

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ワールド

イスラエル指導者に死刑判決を、逮捕状では不十分とイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中