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百田尚樹と「つくる会」、モンスターを生み出したメディアの責任 石戸諭氏に聞く

2020年6月17日(水)12時00分
小暮聡子(本誌記者)



――藤岡氏、小林氏、西尾氏に取材に行って、彼らの印象は。

小林さんは、この本に書いた通りの人だ。メディアに多く登場している通りの人間で、裏表がなく、僕に対しても他のメディアに対してもきっと同じ態度なのだろう。西尾さんは、本人は「保守」と言われることを嫌うかもしれないが、戦後の保守系知識人、という印象だ。藤岡さんは藤岡さんで、彼なりの誠実さというか、真面目な人だなと思った。

――今回も百田さんや見城さんに会いに行ったときと同じように、3氏が書いたものをすべて読んでから行ったのか。

当然だ。西尾さんの著作は膨大なのでもしかしたら漏れているかもしれないが、取材テーマに関連しているものはすべて読んだし、全集も含めて、書かれているものは可能な限り読んだ。

――石戸さんが立命館大学に入学したのは2002年で、小林氏の『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』が書籍として刊行されたのは98年~03年だが、大学時代にこうした作品を読んでいたか。

『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』は若干遅れてだが、ほぼリアルタイムで読んでいた。僕は小林さんの熱心なファンというわけではなかった。歴史認識論争が始まったのが90年代後半で、つくる会が発足したのは96年の12月。活動が本格化した97年~2000年というのが彼らのピークで、2001年には小林さんは脱退している。彼らのことは高校生のときからニュースや新聞報道で知っていた。

――本書の序章では、02年に大学に入学すると「キャンパスにはベストセラーを読んで『自虐史観』を『克服した』学生がそれなりにいた」と書いている。

影響を受けていると思しき学生は、文字通りの意味でそれなりにいたということだ。僕とは考えが違うなと思った。僕は、日本政治史のゼミを受講していた。指導教官は赤澤史朗先生(立命館大学名誉教授・日本近現代史)で、彼の下でアジア太平洋戦争史について一通り勉強した。

赤澤先生は、朝日新聞の書評委員も務めていたリベラルな歴史学者で、つくる会、そして日本の歴史修正主義というものに大きな警戒心を持っていた。赤澤先生が非常に面白かったのは、僕が在学していたときに靖国神社について研究しており『靖国神社 せめぎあう〈戦没者追悼〉のゆくえ』(岩波書店、2005年)を書いたことだった。

戦没者の慰霊や追悼がどのように政治的イシューになっていって、靖国神社がその中でどのように変わっていったのかをとても丁寧に研究していた。政治的には全然立場が違うのに靖国神社に通い、関係者と会話をしながら資料を調べたという話も聞いていた。

政治的な立ち位置が違っても、対象と向き合い、ファクトを調べ積み上げながら考察を深めていくという方法があることを彼の仕事から学んだと思う。

――特集時にも、石戸さんは取材相手や対象に誠実にフェアに向き合おうとしていた。「批判」ありきではなく、相手がなぜそう思うのか、理解したいという姿勢で「研究」する。その原点が見えた気がする。

僕のスタンスを一言で言うと、人間はイデオロギーだけで判断する存在ではない、という話だ。この本に出てくる人たちとは、僕とは考え方が全然違うし、政治的なイデオロギーも全く違う人が多い。考え方は違うが、だからと言って人間として嫌いです、絶対に話したくないということにはならない。

よくあなたは歴史修正主義者に加担するのかとか、差別主義者に加担するのかと言われることがある。僕としては、書いたものがすべてで、彼らの言説に対しては批判的だが、人間としてすべてを否定したいとは思わないという結論にしかならない。

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