最新記事

インタビュー

百田尚樹と「つくる会」、モンスターを生み出したメディアの責任 石戸諭氏に聞く

2020年6月17日(水)12時00分
小暮聡子(本誌記者)



――それでも中には、イデオロギーが異なる人とは話もしたくないという人もいる。今はソーシャルメディアもあるので、自分の聞きたいことだけ聞いて、その閉鎖空間の中で特定の信念や意見が増幅され強化されていくという現象もある。自分と異なる意見の人にアレルギー反応を示し、シャットアウトしないためにはどうしたらいいのだろう。

単純にシャットアウトしないというのは、僕の仕事では大前提だ。心がけているのは、すごくシンプルな話で、オフラインになることだ。ネット空間から出て、人間と会って、取材をするという原則に立ち戻る。

取材も本当はオフライン、対面してやるべきで、オンライン取材はあくまで緊急時の手段でしかない。インタビューは、人に会いに行くまでの過程が大切なのだと思う。どういう場所を指定してくるか、着ているもの、飲み物の注文の仕方、会いに行くまでの道のり、全体的な雰囲気、何気ない所作などにも人となりが表れる。

インタビューは中身のみが本質なのではない。その前後も含めてすべてに大切な要素が詰まっている。それは、オンラインでは代替できない。

――生身の人間同士が会うことで、アレルギーが軽減される可能性がある、と。

そういうこともあるかもしれない。今のメディア業界の傾向は、人に会わなさ過ぎ、SNSの見過ぎということになる。SNS に出てくる話なんて所詮は人間の一部にしか過ぎない。

百田さんについて言えば、ツイッター上の発言には、本の中に書いたように僕も非常に批判的だが、あれでもって百田尚樹という人の全部を語り尽くせるとは思えない。ツイッターの発言だけで彼を語ろうとするなら、それは取るに足らない人物という結論にしかならないだろう。

なぜ百田尚樹という人間にこれだけ多くの人が何らかの反応をしてしまうのか、なぜ彼の本がかくも売れていったのかについての説明はできない。人間はSNS以外にもいろいろな側面を持って生きている。そこを取材をベースにして描き出すことが、僕の仕事だ。

――本誌で特集を出したあと、リベラル側から「百田尚樹を特集すること自体が相手を利する」とも批判された。これは石戸さんというより編集部に向けられた声だと思うが、言論の土俵に乗せること自体が危険視され反発を生むというのは、ある意味で特殊な事態だった。

「百田に対する批判が甘い」という声もあった。批判は自由だが、基本的なスタンスとして、この本はまず問いの立て方が違うということは強調しておきたい。

この人は何がおかしいのかを解き明かす、というスタンスだったら先の批判は当然受けるべきものだろう。だがこの本は、なぜ出てくる人間たちがマーケットを魅了するのか、社会はなぜ彼らに魅了されるのか、という問いの立て方をしている。だから「現象」という言葉を使っている。

百田さんをみんなで批判してすっきりしたいという気持ちを満たすために本を書くという考えは、僕にはない。嫌な奴だとみんなで確認し合って留飲を下げることを目的としていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中