混乱のインドネシア、感染対策より政治優先の知事が規制緩和 邦人は日本料理店「闇営業」で対立
8日、規制緩和初日を迎えたジャカルタ市内飲食店で AJENG DINAR ULFIANA / REUTERS
<いまだ感染者が増加を続ける首都ジャカルタで規制緩和が始まったが、不協和音が広がっている>
インドネシアの首都ジャカルタでは新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するためにとられていた「大規模社会制限(PSBB)」から「ニュー・ノーマル(新常態)」への移行期として段階的に数々の規制を緩和することをアニス・バスウェダン州知事が6月4日の会見で明らかにした。
しかし医療関係者などからは感染者数が全国34州で最も多く、依然として感染者・死者ともに増加を続けている現状から、制限緩和は「時期尚早であり感染拡大の危険がある」と反対の声が出る事態となっている。
ジャカルタ市内では制限緩和を受けて7日には公共施設周辺で運動する市民、市場やモールに繰り出す家族連れ、さらに早くも営業を再開した日本食レストランを含む飲食業者など、新型コロナ禍以前の賑わいに戻りつつある。
地下鉄、バス、近郊列車などの公共交通機関も営業時間、運転間隔などがほぼ通常の運行に戻っている。
外出時や公共交通機関の利用時にはマスク着用、体温検査、手洗い励行、衛生的間隔確保、乗客数制限などの「公衆衛生上のルール」の順守が「規制緩和」の条件として示されているが、実際にどこまで厳格に運用されるかは疑問であり、新型コロナ感染の第2波への懸念が高まっている。
政治的判断で制限緩和決めた州知事
アニス州知事が医療関係者らの反対にも関わらず「規制緩和」に踏み切った背景には、首都に溢れる失業者、生活困窮者、経営難に追い込まれている企業家やビジネスマンらによる経済的理由による「緩和要求」に応じざるを得ないという極めて「政治的理由」があったとされる。
それというのも、アニス州知事は2022年に州知事選挙を控えているほか、再選規定で次期大統領選に現職のジョコ・ウィドド大統領が立候補できないことから次期大統領候補として政党の一部が担ぎ出す動きもある。今回の制限緩和にはそうした自らの将来の政治生命を見据えた判断もあるのではないかとの観測もある。
そうした政治的理由を感染症対策より優先した結果の「規制緩和」とはいえ、ジャカルタ市民や企業などからは皮肉なことに一様に歓迎の声が上がるという現象が起きている。
毎日午後にオンラインで記者会見している保健当局者は、4日の規制緩和発表後は「規制緩和は規制の解除ではない」「守るべき衛生上のルールは厳守しなくてはならない」「ルール違反は他人に迷惑をかける」などと懸命のフォローを繰り返して感染拡大防止への市民の理解と協力を求めている。