最新記事

中国マスク外交

中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは

TWO PATHS TO GLOBAL DOMINATION

2020年6月27日(土)18時21分
ハル・ブランズ(ジョンズ・ホプキンズ大学教授)、ジェイク・サリバン(カーネギー国際平和財団上級研究員)

中国がこうした攻勢に出るなか、折しもアメリカは秩序の守り手としての伝統的な役割を返上しようとしている。このタイミングの一致が事態の行方を大きく左右しそうだ。

国力は上でも苦戦する米政府

ドナルド・トランプ米大統領は従来どおり軍事部門に多額の予算を投じる方針を打ち出しており、アメリカはアジアにおける軍事的プレゼンスを維持できるだろう。その一方で、グローバルな影響力拡大を目指す中国の動きには、トランプは大して関心を示しておらず、示したとしても気まぐれな反応にすぎない。しかも残念ながらトランプ政権のコロナ対策は今のところアメリカの地位低下を印象付ける結果になっている。

中国が世界で指導力を発揮しようとしているのは、ただ単に西太平洋においてアメリカの軍事的プレゼンスを出し抜くためかもしれない。

もちろん、この道にも問題はある。中国はアメリカのようには世界に公共の利益を示せないだろう。国力が劣るからでもあるが、権威主義的な政治制度の下では、アメリカの優位を特徴付けた、比較的開かれた非ゼロサム思考のリーダーシップを発揮するのは難しいからでもある。

この点でコロナ禍は両刃の剣となった。米政府の手ぬるい対応を見て、世界はアメリカの能力と信頼性に懸念を強めたが、その一方で中国が危機においていかに無責任な行動を取るかも誰の目にも明らかになった。

しかも、中国が指導的な地位に就くにはイデオロギー的な障壁がある。中国の台頭をめぐる緊張は、経済と地政学的な利害の衝突によるものだけではない。民主主義的な政府と強力な権威主義的政府の関係にしばしば影を落とす、より深い本質的な不信もそこに潜んでいる。

今のところ中国は2つの道の両方を試そうとしているようだが、中国の経済か政治制度が揺らいだり、競争相手の国々が賢明な対応を取れば、どちらの道もうまくいかない可能性も大いにある。

アメリカは自ら地位低下を招くトランプ路線を捨てさえすれば、中国との競争に耐え抜いて余りある国力を今も保持している。ただ、中国が取り得る道筋が2つあるため、かつての冷戦でソ連を相手にしたときよりもこの競争は厄介で、アメリカは苦戦を強いられるだろう。

From Foreign Policy Magazine

<2020年6月30日号「中国マスク外交」特集より>

【話題の記事】
中国「マスク外交」の野望と、引くに引けない切実な事情
傲慢な中国は世界の嫌われ者
「中国はアメリカに勝てない」ジョセフ・ナイ教授が警告
スウェーデンが「集団免疫戦略」を後悔? 感染率、死亡率で世界最悪レベル

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中