最新記事

中国マスク外交

中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは

TWO PATHS TO GLOBAL DOMINATION

2020年6月27日(土)18時21分
ハル・ブランズ(ジョンズ・ホプキンズ大学教授)、ジェイク・サリバン(カーネギー国際平和財団上級研究員)

具体的には、自国の東に位置する西太平洋ではなく、西に目を向ける。ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保障・経済秩序を確立し、それと並行して国際機関で中心的な地位を占めることを目指すのだ。

このアプローチの土台を成すのは、世界のリーダーになるためには、軍事力よりも経済力と技術力のほうがはるかに重要だという認識だ。そうした発想に立てば、東アジアに勢力圏を築くことは、グローバルな超大国になるための前提条件ではない。西太平洋では軍事的バランスを維持するだけでよく、軍事以外の力を使って世界に君臨することを目指せばいい。

この道を歩む場合も、中国にとってアメリカが先例になり得る。第2次大戦後に形成されて冷戦後に強化された国際秩序でアメリカがリーダーの地位を確立できた背景には、3つの重要な要素があった。

1つは、経済力を政治的影響力に転換できたこと。もう1つは、どの国にも負けないイノベーション能力を維持できたこと。そしてもう1つは、主要な国際機関や制度をつくり、国際的行動に関する重要なルールを定める力を持っていたことだ。中国は第2の道を進む場合、この3つの要素を再現しようとするだろう。

そのためにはまず、「一帯一路」構想をユーラシアとアフリカ両大陸に広げる必要がある。加えて、デジタル版「一帯一路」とも言うべき「デジタル・シルクロード」構想の推進も重要だ。中国製の通信インフラを広く整備することで、習政権は17年の党大会で宣言した「サイバー超大国」への道に一歩を踏み出せる。

こうした攻めの対外経済政策に加え、国家主導で新技術の開発に巨額の投資を行うことで、中国は人工知能(AI)、量子コンピューター、バイオ技術といった最先端分野で優位に立てるだろう。

アメリカが自国の政治理念に基づいて第2次大戦後の主要な国際機関の設立を主導したように、中国も第2の道を進むなら、国際秩序の柱となる政治理念をつくり変えようとするだろう。中国が国連のあらゆる機関で自国の権益を守り、人権よりも国家の主権が重視されるよう全面攻撃を仕掛けていることは、多くの専門家が指摘しているとおりだ。

外国に対する世論操作や工作活動などの手段で自国に有利な状態をつくり出す「シャープパワー」戦略というフレーズは、近頃ではオーストラリア、ハンガリー、ザンビアなど民主主義国の政治的言説に影響を及ぼそうとする中国の強引な試みを表す言葉としてすっかり定着した。中国は各国にアメリカを上回る数の外交官を送り込むばかりか、金融や気候変動対策などのルール作りを担う国際機関で議論を主導するため執拗な働き掛けを行っている。

【関連記事】米中スパコン戦争が過熱する中、「富岳」の世界一が示した日英技術協力の可能性

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中