ブラジルのコロナ無策は高齢者減らしのため?
Brazil Government Aide Says COVID-19’s Toll on Elderly will Reduce Pension Deficit
サンパウロにあるブラジル最大の墓地で、作業に追われる防護服を着た埋葬業者 Jason Lee-REUTERS
<ブラジルが無策に転じたのは、コロナ対策会議で「高齢者が最もリスクが高い」と報告したとき。ある高官が「年金の赤字が減って結構」と言ったという>
ブラジルの保健当局は当初、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために迅速に手を打ったのだが、報道によれば、ジャイル・ボルソナロ大統領の首席補佐官室の介入により、方針が転換された。その後のブラジルの対応には国内外の批判が集中している。
ブラジルには目下、保健相が不在だ。ネルソン・タイシ保健相は5月15日に就任後わずか1カ月で辞任した。感染防止より経済を優先し、スポーツジムや美容サロンの営業再開も許可するというボルソナロの方針に、とてもついていけないと判断したからだ。新型コロナウイルスの脅威を軽視し、ロックダウン(都市封鎖)を頑として拒むボルソナロには、世界中から非難の声が浴びせられている。
タイシの前任者であるルイス・エンリケ・マンデッタ元保健相は、国民にソーシャルディスタンシング(「社会的距離の確保」)やステイ・ホームを呼びかけたが、それがボルソナロの不興を買い、4月に解任された。ブラジルではわずか1カ月間に2人の保健相がポストを去ったことになる。
マンデッタは在任中、新型コロナウイルスの脅威を即座に見抜き、クルーズ船の運航停止や大規模な集会の禁止、外国からの帰還者の隔離などの措置を次々に打ち出した。
「年金財政が改善」
だが、大統領首席補佐官室からの「圧力」でマンデッタの方針は骨抜きにされた、とブラジル保健省の新型コロナウイルス対策を率いた感染症の専門家フリオ・クローダはロイターに語った。
方針転換のきっかけになったのは、3月の対策会議でクローダらが、高齢者の死亡リスクが最も高いと報告したことだという。
「死者が高齢層に集中するなら、結構なことだ」
その場でそう発言したのが、首席補佐官室の中でも民間の保険業務の監督責任者で、経済相と連携して年金改革に取り組むソランジュ・ビエイラだった。
「年金の赤字が減って、わが国の財政状況は改善する」と、ビエイラは述べたという。
ロイターによると、会議の場にはいなかったが、後で出席者から話を聞いた別の当局者も、ビエイラがそう発言したと明かした。
ビエイラは本誌に対し、対策会議では「一貫して人命を守ることを第一に」話し合いが行われたと主張した。
<参考記事>ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがいつかは死ぬ」
<参考記事>新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領