最新記事

感染症

異常に低いロシアの新型コロナウイルス致死率 陽性者が亡くなっても死因はがんなどに

2020年5月24日(日)15時35分

写真は3月、モスクワ近郊の別荘で庭の消毒を行うリュボフ・カシャエバさん。 ダリア・コルニロワさん提供(2020年 ロイター)

今月ロシアの首都モスクワの病院で、リュボフ・カシャエバさんが74歳の生涯を閉じた。彼女は2回、新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出ていたが、公式の死因とされたはコロナではなく、患っていたがんだった。

義理の娘のダリア・コルニロワさんは「医師の診断書には悪性腫瘍による死亡と記されていた。コロナとはどこにも書かれていなかった」と話す。

カシャエバさんのように、新型コロナに感染して亡くなりながら、死因は別の理由とされた人はロシアで何千人にも上る。

同国の新型コロナ感染者数は29万9941人と世界第2位だが、死亡者は2837人で、米ジョンズ・ホプキンス大学によると、10万人当たりの致死率は1.88人にとどまる。米国の27.61人、英国の52.45人と比べるといかにも低い。

ロシアは、こうした死亡者の算定方法は妥当だと主張している。モスクワ当局の新型コロナ感染症の検死に関する指針を策定した病理学者Oleg Zairatyants氏はロイターに「われわれは新型コロナの特徴を熟知している」と語り、陽性判定されたのにコロナによる死亡とされていない点を問われると、検死結果は客観的だと強調した。「残念ながら人々が亡くなっていく。しかし、われわれにとって死因は明白」で、その点は問題になっていないとの見方を示した。

ただ愛する人を失った家族は、コロナに感染していなければ亡くなる時期がもっと遅くなったはずだと異論を唱えている。

カシャエバさんの場合、今年1月に末期の大腸がんと診断されたものの、化学療法を受ける予定になっていて、家族は延命に期待を抱いていた。しかし、体調が悪化して今月3日に病院に搬送されたときには、検査で両肺にコロナ症状である肺炎の進行が認められた。その後、2回のウイルス検査とも陽性反応が出た。カシャエバさんは8日に息を引き取った。

コルニロワさんは「コロナが間違いなく我が家のおばあちゃんの命を奪った。われわれは悲しみにくれている。コロナに感染していなかったら、化学療法を受けて、もう少し長生きできただろうに」と嘆く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

IMFと世銀、基本回帰でトランプ政権の信頼得る必要

ビジネス

中国のボーイング機受領拒否、関税が理由と幹部

ワールド

韓国GDP、第1四半期は予想外のマイナス 追加利下

ビジネス

米キャンター、SBGなどとビットコイン投資企業設立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中