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異常に低いロシアの新型コロナウイルス致死率 陽性者が亡くなっても死因はがんなどに

2020年5月24日(日)15時35分

恣意的な判断

モスクワ市は、4月に死亡した新型コロナ感染者の60%余りについて、死因は新型コロナと別だと認定している。心臓発作や脳卒中による血管破裂、あるいは終末期の各種悪性疾患といった、明らかに別の病気があったからだとしている。

その上で市当局は、ロシアの新型コロナ死亡者の算定方法は他国よりも正確であり、これは既に700万人超に実施している全国的な検査プログラムの成果だと強調した。

これに対してコルニロワさんは、カシャエバさんの死因認定は政府の方針で決まったと感じている。「現時点で私が知る限り、ロシアのコロナ死者をできるだけ低く抑えるべきというのが政府の方針だ」と指摘した。

ロシアのゴリコワ副首相は、死亡者データの操作をしているとの見方を否定している。同国はほとんどの国と異なり、コロナ感染者がどのような理由で死亡したかを事後的な分析で決定する仕組みだ。

一部の医師は、その判断が恣意(しい)的だとみている。モスクワの病院で心臓疾患集中治療管理室を統括するAlexey Erlikh氏は「単純にいえば、誰もウイルスが直接の原因ではなく、ウイルスがもたらすさまざまな合併症のために亡くなる。だがウイルスによって慢性疾患の合併症が起きても死亡する。そうした事例をコロナの死者として数える必要はないと考える向きがあるが、私はコロナの死者とすべきだと信じる」と断言した。

難しい区別

英オックスフォード大学教授で医師のカール・ヘネガン氏によると、同国ではコロナの陽性者だけでなく、感染が疑われたものの検査結果で陽性と判定されずに亡くなった場合でも、全てコロナ死亡者に含めている。

ヘネガン氏は、コロナによる死者と、コロナだけでなく、ほかに病気があった死者を区別しない方針だとしている。モスクワのある病理学者も、この2つをはっきり区別するのは事実上不可能だと認める。

世界保健機関(WHO)のロシア代表、メリタ・ビノビチ氏は先週、地元テレビで「(死亡者を)意図的に低く算定していることはない。再集計が行われる可能性はあるが、今のところ重大な問題は見当たらない」と述べた。

それでも市民の疑念は払しょくされていない。11日に父親が亡くなったというレオ・シルコフさんは、コロナ死亡者がそんなに多く出ていると知っていれば、父をもっと早く入院させていたという。父親は陽性反応が出た後、人工呼吸器を11日間装着され、そのまま回復しなかった。

シルコフさんはソーシャルメディアで、父親の死因がコロナだと認定されなかったと明らかにするとともに「確かに父は数年前に心臓発作を起こしたし、腎臓が悪く糖尿病だった。しかしコロナにかからなければ、まだ生きていただろう」と無念の思いを口にした。

(Polina Ivanova記者 Maria Tsvetkova記者)

[モスクワ ロイター]


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