産油国が地獄を見る2020年に、独り勝ちするサウジアラビア
The Oil Crash’s Unlikely Winner
元ゴールドマン・サックスのアナリスト、アージュン・ムルティも、アメリカの原油価格が1バレル当たり約50ドルに回復したとしても、年間生産量の増加は日量換算で最大50万バレル程度にしかならないと予測している。
新型コロナウイルスのせいで落ちるところまで落ちた原油価格が再び上昇に転じるとして、そのときサウジアラビアは(湾岸諸国の一部やロシアと同様)価格上昇の恩恵を受けるだけでなく、世界市場でのシェアを拡大するチャンスにも恵まれるだろう。
OPEC加盟国でも経済力の劣る諸国は、増産どころか生産の再開と施設維持の投資にも苦労することだろう。その結果、生産量は思うように伸びない。1998年から翌年にかけての原油価格暴落後にも、イランやイラク、ナイジェリア、ベネズエラなどは生産の回復に手間取った。
付け加えれば、この間にサウジアラビアは地政学的な地位も強化している。ほころびの目立っていたアメリカとの同盟関係を再構築できたし、生産量の調整によって世界の原油市場をコントロールできる唯一の国という立場も取り戻すことができた。
サウジに頼るしかない
パンデミックで世界経済が停滞し、需要のなくなった大量の原油で各国の貯蔵施設が満杯になりそうな状況で、産油国も消費国も最終的にはサウジアラビアに頼り、どうにか歴史的な生産削減の合意にこぎ着けた。
主要20カ国を新OPECに仕立てるなど、さまざまな対案が模索されたが、結局はサウジアラビアに頼るしかなかった。サウジアラビアは長い間、莫大な費用をかけて予備の生産能力を築き上げ、いざというときの生産調整に柔軟に応じられる準備をしている。そんな国はほかにない。
今回の危機で、世界はサウジアラビアの特別な地位を再確認させられた。この国は石油市場の支配を通じて、世界に地政学的な影響力も行使できる。気候変動対策で各国が石油消費量を大幅に減らすまで、その地位は揺るがない。
サウジアラビアはまた、OPEC非加盟のロシアなどの産油国も加えた「OPECプラス」の枠組みで生産削減を主導することによって、3月のOPECプラス交渉から抜けて価格戦争を仕掛けたロシアに対し、単独では勝てないことを思い知らせた。石油価格の調整において、ロシア政府がサウジアラビアに依存する割合はその逆よりも大きく、両国の関係においてはサウジアラビアの立場が圧倒的に強い。