最新記事

エネルギー

産油国が地獄を見る2020年に、独り勝ちするサウジアラビア

The Oil Crash’s Unlikely Winner

2020年5月19日(火)20時00分
ジェイソン・ボードフ(コロンビア大学グローバルエネルギー政策研究所所長)

元ゴールドマン・サックスのアナリスト、アージュン・ムルティも、アメリカの原油価格が1バレル当たり約50ドルに回復したとしても、年間生産量の増加は日量換算で最大50万バレル程度にしかならないと予測している。

新型コロナウイルスのせいで落ちるところまで落ちた原油価格が再び上昇に転じるとして、そのときサウジアラビアは(湾岸諸国の一部やロシアと同様)価格上昇の恩恵を受けるだけでなく、世界市場でのシェアを拡大するチャンスにも恵まれるだろう。

OPEC加盟国でも経済力の劣る諸国は、増産どころか生産の再開と施設維持の投資にも苦労することだろう。その結果、生産量は思うように伸びない。1998年から翌年にかけての原油価格暴落後にも、イランやイラク、ナイジェリア、ベネズエラなどは生産の回復に手間取った。

付け加えれば、この間にサウジアラビアは地政学的な地位も強化している。ほころびの目立っていたアメリカとの同盟関係を再構築できたし、生産量の調整によって世界の原油市場をコントロールできる唯一の国という立場も取り戻すことができた。

サウジに頼るしかない

パンデミックで世界経済が停滞し、需要のなくなった大量の原油で各国の貯蔵施設が満杯になりそうな状況で、産油国も消費国も最終的にはサウジアラビアに頼り、どうにか歴史的な生産削減の合意にこぎ着けた。

主要20カ国を新OPECに仕立てるなど、さまざまな対案が模索されたが、結局はサウジアラビアに頼るしかなかった。サウジアラビアは長い間、莫大な費用をかけて予備の生産能力を築き上げ、いざというときの生産調整に柔軟に応じられる準備をしている。そんな国はほかにない。

今回の危機で、世界はサウジアラビアの特別な地位を再確認させられた。この国は石油市場の支配を通じて、世界に地政学的な影響力も行使できる。気候変動対策で各国が石油消費量を大幅に減らすまで、その地位は揺るがない。

サウジアラビアはまた、OPEC非加盟のロシアなどの産油国も加えた「OPECプラス」の枠組みで生産削減を主導することによって、3月のOPECプラス交渉から抜けて価格戦争を仕掛けたロシアに対し、単独では勝てないことを思い知らせた。石油価格の調整において、ロシア政府がサウジアラビアに依存する割合はその逆よりも大きく、両国の関係においてはサウジアラビアの立場が圧倒的に強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中