最新記事

日本政治

ハッシュタグ抗議で揺れた「検察庁法改正案」

Japan’s Hashtag Politics

2020年5月19日(火)14時15分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

しかし実際には、社会秩序を維持する手段として法をどのように執行するかを特に最高検が大局的に考えるからこそ、その判断が時に政治をつかさどる官邸中枢の意思とシンクロしているかのように見えるだけだ。安倍政権が森友学園問題の関係者不起訴を指示したり、さまざまな疑惑つぶしのために定年延長制度の特例措置を導入するという考えは説得力に欠ける。

権力闘争に巻き込まれる

第2の課題は、権力闘争への関与だ。三権分立の下で政治的中立性を維持しなければならないというお題目の問題ではない。生の政治が持つ吸引力ゆえ、法執行機関も権力闘争に巻き込まれる。

今回の検察庁法改正の背景にも、超長期政権となった安倍政権における権力闘争がある、と指摘されている。一躍次期首相の座を狙うに至った「史上最強」の菅義偉官房長官は、昨年9月の内閣改造で自らの側近である河井克行衆議院議員を法相として入閣させた。だが反発はすさまじく、妻である河井案里参議院議員の公選法違反疑惑が浮上し、河井氏は法相辞任に追い込まれた。

法務省官房長・事務次官時代に菅氏から厚い信頼を得ていたとされる黒川検事長の定年延長に、河井法相辞任後の法務・検察に対する牽制の意図があったかは不明だ。しかし、2つの動きは国民の目には1つに映る。大阪地検特捜部のフロッピーディスク改ざん事件以来低迷していた検察が、リニア新幹線談合事件やスパコン助成金詐取事件の精力的捜査で復活ののろしを上げていたタイミングでもある。

新型コロナウイルス対策の給付金政策が二転三転した不自然な経緯からも、次期総裁・首相の座も絡む権力闘争が官邸や自民党内で起きている可能性がある。今回の法改正も、政権中枢における権力闘争の具となっているのかもしれない。いずれにせよ、コロナで国会日程が詰まるなか、法改正は1日でも早く、確実に今国会中に可決成立したほうがいいと考える向きがあるのだろう。廃案になれば次にどうなるかは分からない。

5月13日の「河井前法相の立件検討」という報道が、検察リークによるものかは不明だ。国会開会中の在宅起訴にせよ17年ぶりの逮捕許諾請求のいずれにせよ、開会中の立件は内閣不信任案提出さらには解散という政局の直接的トリガーになり得る。それゆえ閉会を待っての逮捕になるという見方も強いなか、検察庁法改正案の審議と前法相の捜査が交差する重大局面に差し掛かっている。

<編集部注:政府・与党は18日、検察庁法改正法案の今国会での成立を断念。安倍首相が記者団に「国民の理解なくして前に進むことはできない」と述べた。>

<2020年5月26日号掲載>

【参考記事】検察庁法改正案を強行採決する前に、3つの疑問に答えて!
【参考記事】安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中