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ハッシュタグ抗議で揺れた「検察庁法改正案」

Japan’s Hashtag Politics

2020年5月19日(火)14時15分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

安倍政権が黒川東京高検検事長の定年延長をごり押ししたことで定年延長法案に世論の猛反発が(写真は5月4日) Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS

<コロナ禍のさなかに降って湧いた検察官の定年延長問題──「最恐の捜査機関」と権力の関係性の本質が白日の下に>

「秋霜烈日」が揺らいでいる。

秋の厳霜と夏の烈日のように厳正を極める法秩序の維持が検察官の矜持であり、胸に着けるバッジはその象徴だ。このバッジはこれまでも、法秩序と政治との間で荒波にもまれてきた。今回、検察の独立を損なう恐れがあるとしてひときわ大きな波紋を広げているのが、検察官の定年を延長する法改正問題だ。

定年延長を含む検察庁法改正案は5月8日、国家公務員法改正案に束ねられて衆議院内閣委員会で審議入りした。これまで検事総長が65歳、その他の検察官が63歳とされていた定年を一律65歳に引き上げるとともに、検察ナンバー2である次長検事と各高検のトップである検事長などについて、63歳の役職定年制を導入する。定年延長自体は一般職国家公務員と同じく、年金支給開始年齢の引き上げに合わせて、かねてより立法が準備されていた。

ところが、その改正案の中に特例措置が設けられていた。次長検事と検事長は63歳になった翌日から一般の検事に戻るのが原則だが、内閣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案」して、「公務の運営に著しい支障が生じる」と判断した場合、最長3年、66歳まで官職を継続させることができるのだ。検事総長も同様に3年(68歳)まで、一般の検事は判断権者が法務大臣となるが同じく3年の定年延長が認められる。

問題は、定年延長の判断権者が一般職国家公務員では人事院なのに対して、検察官の場合、内閣または法務大臣であることだ。1月末、黒川弘務東京高検検事長(63)の定年延長が国家公務員法の一般規定に基づいて閣議決定され、次期検事総長人事への介入ではないかと騒がれたばかり。検察人事に対する政治介入を狙った法改正ではないかと野党は猛反発し、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きツイート数は1000万件近くに達した。

政府とすれば、検察官の定年延長についての法的根拠が国会で論争になったことから事後的ではあるが立法措置でフォローしようとしただけかもしれない。自衛隊法と検察庁法を国家公務員法改正案とパッケージにして今国会に提出することは既定路線だった。また、今回の改正法が可決・成立したとしても施行は2022年4月1日であり、その前に黒川検事長は65歳に達しているから、改正法は適用されない。

上意下達を旨とする法務・検察組織で、定年延長を餌に一部の幹部が内閣におもねり政権の意向を忖度することが実際起きるのかも疑問だ。他の省庁と同じく、検察でも入庁年次(修習期)が重視され、同期が昇進したポストに届かなかった者は早期退職し、入庁年次と役職の逆転現象が起きないような秩序もおのずとある。退職した検事は法曹資格を生かして弁護士、公証人等になる道が開かれており、官職に執着する必要もない。こう考えれば、野党の批判はやや強引だとも言える。

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