コロナ危機:専門家への信頼が崩れるとき
Crisis Communication In Crisis
第2に「分かりやすい言葉で、繰り返し語ること」だ。政治家ならば、アンゲラ・メルケル独首相のメッセージが手本なる。「今はおじいさん、おばあさんに会わないようにしよう」と訴え、医療従事者だけでなく、スーパーの店員など物流を維持する無名の人々への感謝を忘れない。
「危険だと訴えるだけがクライシス・コミュニケーションではない。危機だからこそ、リーダーは具体的にできることを語り、時に人々を励まし、感謝を表明することが大事になる。要請ばかりでは動かない」と、西澤は指摘する。
翻って、日本の専門家や政治家の行動、発信はどうだろうか。政府の「専門家会議」やクラスター対策班のメンバーも個々人、あるいは有志がバラバラとツイッターで発信を始めたり、記者会見をセットしたりと「ワンボイス」にはなっていない。
「『三密』を避けろ」「人と人との接触を7〜8割減らせ」というメッセージでは、密が「二」ならばどうなのか、あるいは満足な補償も無いまま働かざるを得ない人はどうしたらいいのかという疑問がどうしても残る。
先のメールによれば、密が「一か二」なら10割避けなくてもOKということになるが、あれだけ近距離で飛沫を散らせて感染しないという保証はどこにもない。
西澤は「社会に要請するならば、自分から率先して行動するのが、危機における政治家や専門家の役割だ」と語る。
変化が必要なのは「社会」だけではない。情報の発信者でもある政治家や専門家も、だ。そこに気付けるか否かで日本の今後が決まる。そう言っても過言ではないクライシスは、確実に足元から起きている。
<本誌2020年5月5日/12日号掲載>
【参考記事】日本のコロナ対策は独特だけど、僕は希望を持ちたい(パックン)
【参考記事】ロバート キャンベル「きれいな組織図と『安定』の揺らぎ」
2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。