コロナ危機:専門家への信頼が崩れるとき
Crisis Communication In Crisis
著名な科学ジャーナリストも多く参加していたが、「なぜ専門家が率先して、社会的距離を取って『密』を避けないのか」と聞いた記者は私1人だった。
その場では回答を濁されたので、後日関係者に質問を送ったところ「あの場で、一つか二つの密は発生していたが、10割避けてほしいと要請している『三密』は発生していない」「参加者は医療と社会機能を維持する者であることを理解せよ」といった趣旨のメールが返ってきた。
後段には、専門家同士のデジタルデバイド(情報格差)もあり、返信時点で全員がオンラインで会議をこなすことはできていないとも記されていた。
彼らは間近に医療崩壊が迫っていると危機感を語っていた。人々には接触を減らすことや、リモートワークを呼び掛けていた。それなのに専門家のデジタルデバイドすらろくに埋められないまま、社会に要請しているという回答に、私は唖然とした。
この場に感染者がいて、感染が広がったらどうするのか。その点だけは明らかにしてほしいと思い「専門家は人々に感染している前提で行動してほしいと言っていた。感染している前提でもこのような行動になるのか?」と重ねて質問を送ったが、ついにまともな返事はもらえなかった。
言外ににじんでいたのは、自分たちだけは特別であるという意識だった。
西澤によれば、クライシス・コミュニケーションの基本は2つに集約できる。第1に「ワンボイス・ワンメッセージ」。政治に助言する科学者側の情報が複数の人から出て、それらの内容が対立したらどうなるか。受け手が混乱する。
対応の見本として彼女が挙げたのが、アメリカで感染症対策の陣頭指揮を執るアンソニー・ファウチだ。
1984年から米国立アレルギー・感染症研究所長を務めるファウチは、新型コロナウイルス問題でもアメリカで危機に立ち向かっている。連日のようにメッセージを発信し、会見にも臨む。ドナルド・トランプ大統領との確執も報じられるが、トランプ政権の新型コロナ対策チームの責任者はファウチであり、情報発信も担う。
「誰が科学者として政治にアドバイスする責任を負っているのか。責任の主体がはっきりしているのがアメリカの特徴であり、危機の情報発信においてはこれが大事になる」