ウイルス発生源をめぐる米中対立と失われたコロナ封じ込め機会
そもそも、トランプ政権は国際保健への取組を軽視して、疾病対策予防センタ−の予算を削減するだけでなく、オバマ政権が編成した国家安全保障会議のパンデミック対策チームを解体し、2005年から続いてきた中国の疾病対策管理センターへの米国人専門家の派遣も見送っていた。1月21日にワシントン州で最初の新型コロナウイルス感染者が確認された後も、米中が合意したばかりの貿易協定の履行を確実にするため、トランプ大統領は中国がウイルスに関する情報を十分提供していないことを批判せず、むしろ習近平国家主席の対応を賞賛した。
だが、政権内では、対中強硬派のナバロ大統領補佐官や、ジャーナリストとして中国のSARS対応を取材した経験のあるポッティンジャー大統領副補佐官が、新型コロナウイルスの危険性について警鐘を鳴らし、中国の情報操作を批判しつつ、大胆な感染症対策を取ることを大統領に進言していた。そして、1月30日に世界保健機関(WHO)が公衆衛生上の緊急事態を宣言し、米国内でヒトからヒトへの感染が確認されると、トランプ大統領はその翌日に中国からの入国規制を発表することに同意した。この入国規制の発表は事前の調整もなかったため、中国側を激怒させた。
「初動の遅れは中国のせい」
その後も米国内で新型コロナウイルスの感染が拡大したが、トランプ大統領は春になれば収束するとの楽観的な見通しを示し続けた。2月25日に、政権の感染症専門家が出した感染拡大に関する警告を受けて株価が急落すると、トランプ大統領は激怒し、ペンス副大統領を中心とする対策チームを発足させて市場を不安にさせる発言が政権内から出ないようにした。ムニューシン財務長官やクシュナー大統領上級顧問も感染症対策が経済に及ぼす悪影響を懸念し、ペンス副大統領は対中批判が中国からの医療器具などの調達を阻害することを恐れていた。
2月26日の時点で米国内の感染者数は15人であったが、3月16日には4226人に拡大した。トランプ大統領もようやく重い腰を上げ、欧州からの入国禁止を発表し、国家非常事態を宣言した。株価は低迷し、医療用の防護服やマスク、人工呼吸器などの不足が指摘される中、トランプ政権はコロナウイルスへの初期対応の遅れが批判された。都市のロックダウンによって経済活動が停滞するようになると、トランプ政権の経済チームは経済対策に負われ、対中強硬派が中国による情報の隠蔽を公に批判するようになった。政権の初動の遅れを中国に責任転嫁したのである。