ウイルス発生源をめぐる米中対立と失われたコロナ封じ込め機会
一方、米情報機関は、武漢の研究機関からウイルスが意図せず漏洩された可能性に注目するようになった。米メディアによれば、2018年1月に武漢ウイルス研究所を訪問した米政府関係者が、同研究所内でのコウモリのウイルスの取り扱いに関して安全性と管理体制が不十分であることを危惧し、米政府の支援が必要だと公電で報告していた。この公電は、武漢での新型ウイルスの感染拡大後、政権内で広く回覧され、同研究所のインターンがゼロ号患者となったという見方が強まっている。トランプ政権内では、同じく武漢にある疾病対策予防センターのウイルス研究の責任者である田俊华(Tian Junhua)氏が、不注意から最初の患者になった可能性も検討されている。
武漢ウイルス研究所でコウモリ研究の責任者で「バットウーマン」の異名を持つ石正麗氏は、いち早く新型コロナウイルスの遺伝子配列情報を解析し、科学誌ネイチャーで、武漢から遠く離れた雲南省のコウモリに起因するウイルスと96パーセント類似していることを明らかにした。石氏は、米科学誌のインタビューに答えて、新型コロナウイルスが自身の所属する研究機関が保有するどのウイルスとも一致しないと述べ、漏洩の可能性を否定している。中国外交部の報道官も、その可能性を否定した。
責任転嫁から責任追及へ
しかし、香港メディアによって、国家保健委員会の指示をうけて、武漢ウイルス研究所の所長が新型コロナウイルスに関する一切の情報を公開しないように部下に指示したとも伝えられている。また、武漢疾病対策予防センターの責任者に関する情報は、同センターのウェブサイトから抹消されている。SNSを通じて武漢での新型肺炎の拡大を告発した8人の市民が当局に拘束されたことも伝えられている。
このため、トランプ政権内では、中国政府が新型コロナウイルスの感染者数や死者数について情報操作を行っているだけでなく、発生源について当初海鮮市場としたのも、研究施設からのウイルスの漏洩を隠蔽するためだったのではないかとみなす向きがある。中国政府は1月初旬に新型コロナウイルスのサンプルを米国に提供したが、追加のサンプルの提供や武漢への米国人専門家の派遣を中国が拒んだことも、不信感を募らせている一因である。しかし、研究所漏洩説を裏づける確実な根拠は未だに示されていない。
米メディアによれば、米国の情報機関は早い段階から武漢での新型ウイルスの感染拡大が米国に及ぶ可能性を指摘していた。しかし、トランプ政権は、当初新型コロナウイルスの感染拡大の可能性を過小評価し、大統領選挙を控えて感染症対策よりも経済を重視する姿勢を維持した。