日本版ロックダウンでできること、できないこと
都市の局所的な封鎖は現行法でも可能だが(2019年5月のトランプ大統領の来日時、東京都内) Issei Kato-REUTERS
<いよいよ緊急事態宣言、そして日本版ロックダウンが始まろうとしている――が、交通封鎖も不要外出者の処罰もできず、その実効性は疑問視されている。国民の命を守るため「緊急事態基本法」整備の必要性を本気で考えるべきときだ>
いよいよ緊急事態宣言が出されようとしている。これまで日本政府は緊急事態宣言を出すべきか出さざるべきか、という壮絶なジレンマに直面してきた。新型コロナウイルスの感染爆発を食い止めるには都市封鎖(ロックダウン)が必要だが、東京や大阪が本格的にロックダウンされると、社会的混乱に加えて甚大な経済的損失が予想されるからだ。
明日出される見込みの緊急事態宣言、そしてそれに伴う日本版ロックダウンには「法律上の強制力」がない。鉄道や道路は通常通りに機能する。新型インフルエンザ特措法には土地建物などの強制収容(即時執行)規定や必要物資の保管命令などに関わる罰則規定はあるものの、他に行政ができるのは基本的に「要請と指示」であり、違反に対しては氏名公表などの方策を取りうる程度だ。感染症法33条を使えば感染エリアの交通を遮断できるが、72時間限定の措置であり局所的で大都市の封鎖には不充分だ。確かに、ロックダウンの実効性を疑問視する声には一理ある。
宣言がトリガーとなって起きること
しかし実際には、大企業の多くは交通封鎖なしでも事業を大幅に縮小するだろう。策定済みの事業継続計画(Business continuity planning, BCP)を発動するからだ。BCPとは、地震や台風といった自然災害やテロなどの人災が発生した場合に、企業としてどのように緊急事態に対応するかをあらかじめ定めた行動計画である。企業として重要事業を継続させるために、あるいは被害から1日も早く回復するためにどのような体制・手続をとるかを定めた手順書のことだ。
この中でも特に「感染症の蔓延」という非常事態に対しては、人的資源の確保が最重要だとされている。具体的なBCPは厚生労働省などが2009年に定めた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」に依拠している例が多いが、そこでは、いわゆる第三段階(感染蔓延期)には重要業務へ資源を集中させその他の業務の縮小・休止を継続することが求められている。実際にはさらに踏み込んで、製造業では「工場の操業停止」や、あるいは事業会社全般で基幹業務以外に関わる「社員の出勤禁止」(自宅待機)といった手順が想定されていることが多い。
いずれにせよ、インフル特措法に基づく緊急事態宣言が出された場合、それがトリガーとなって多くの大企業は自動的にBCPを発動し、企業活動は大幅に縮小するだろう。その影響で、宣言前と同じような日常生活を送れなくなる可能性は高い。2020年度の実質GDP成長率は前年比マイナス3.1%、感染流行が長期化した場合はマイナス7.4%に達するという試算もある。尋常ではない実体経済の冷え込みが待っていることは必定だ。