塀の中の新型コロナウイルス感染実態 米刑務所、次々「釈放」の波紋
一方で、釈放の動きに反発する団体もある。犯罪被害者の権利を擁護する団体マーシーズ・ローは、釈放前に被害者に通知すべきとして批判している。だが、これでは収監者の釈放プロセスが数週間あるいは数カ月遅れることになりかねない。
ニューヨーク、ロサンジェルス、ヒューストンその他主要都市の当局者は、釈放しているのは暴力性を伴わない軽微な犯罪の受刑者だけだとしている。
ニューヨーク市はウイルスの封じ込めを急ぐ中で先週末以来、約450人の収監者を釈放した。すでに新型コロナによる死者は全世界で2万8300人を超え、そのうち2050人以上は米国で死亡している。
拘置制度の独立した監視機関であるニューヨーク市の矯正理事会は、釈放される可能性がある収監者は約2000人としている。50歳以上、身体虚弱で、暴力性のない軽微な犯罪による収監者などである。市はウイルス検査を受けた収監者の数については公表を控えている。
27日、ニューヨーク州政府は、ニューヨーク市の管轄下にある拘置所の400人を含め、州全体で1100人の軽微な犯罪者を即時釈放の対象に指定した。市庁の広報官コルビー・ハミルトン氏は、「さらに数百人が近日中に釈放されるだろう」としている。
「何の防御措置もない」
米国は、世界のどの国より「塀の中」の人口が多い。米国司法統計局によれば、収監者数は2017年の時点で230万人に迫り、そのうち約150万人が州・連邦刑務所、さらに74万5000人が市や郡などの拘置所に収監されている。
23日にライカーズ島拘置所から釈放された収監者によると、施設内では体調の悪い者も健康な者も、区別なく混在している場合が多かったという。彼がいた区画で収監者1人、刑務官1人が陽性と診断されて以降、2人用の監房で過ごす時間が長くなったという。だが、薬物中毒治療薬を毎日受け取るために、医務室の窓口に他の収監者と並ばなければならなかった。
匿名を条件に取材に応じた32歳の収監者は、「身を守るための措置は何もなかった」と話す。「周囲とは距離を置きたかったが、それは不可能だった」
ニューヨーク市矯正局は、感染者が出た区画の収監者に対するマスクの配布、収監者間の距離確保の推進、監房の清掃、石鹸の支給など、感染拡大に対応するための措置を取ってきたと主張する。