最新記事

感染症

塀の中の新型コロナウイルス感染実態 米刑務所、次々「釈放」の波紋

2020年4月4日(土)08時26分

米国全土で拘置所・刑務所における新型コロナの感染が拡大し、収監者を保護するためにさまざまな措置を講じていることが報告されている。釈放された者は数千人にのぼるが、新型コロナに感染している可能性があるか、社会に感染を拡げるリスクがあるかを判定する医学的な診断は、まず行われていない。写真はニューヨーク市のライカーズ島にある拘置所。3月22日撮影(2020年 ロイター/Andrew Kelly)

ショーン・ヘルナンデスさんは監房から出るとき、Tシャツかタオルで口と鼻を覆う。ニューヨーク市のライカーズ島にある拘置所で広がりつつある新型コロナウイルスに対し、すぐに彼が用意できる防御策はそれくらいしかない。

ヘルナンデスさんによると、収監者は手袋やまともなマスクを入手することはできず、手を洗おうにも冷たい水しかない。ヘルナンデスさんは殺人未遂で有罪判決を受け、8年の刑に服している。

収監者たちは3月26日、刑務官が咳き込んでいたのを目撃したとヘルナンデスさんは語る。刑務官の頬は紅潮し、そのまま床に倒れ込んだという。

「我々は当局に、もう少しましな方法で身を守りたいと要求し続けている」と、彼は言う。「みんな肩をすくめるだけだ。結局、俺たちはは収監者であり、2級市民にすぎない。家畜のようなものだ」

28日時点でニューヨーク市内の拘置所では少なくとも132人の収監者、104人の職員が新型コロナに感染した。過密状態 の施設内で、ウイルスは急速に拡散しているようだ。

ニューヨーク市矯正局は、収監者を守るために多くの措置を実施しているとしている。感染した刑務員が倒れたというヘルナンデスさんの証言についてはコメントを控えた。

犯罪被害者は反発

米国全土で拘置所・刑務所における新型コロナの感染が拡大し、収監者を保護するためにさまざまな措置を講じていることが報告されている。ロイターの取材によると、釈放された収監者は数千人にのぼるものの、新型コロナに感染している可能性があるか、社会に感染を拡げるリスクがあるかを判定する医学的な診断は、まず行われていない。

規模の大きな順に上位20の刑務所を運営する市・郡を対象にロイターが調査したところ、3月22日以来、収監者226人、職員131人の感染が確認されている。ウイルスが急速に蔓延していることを考えれば、実際の数字はさらに大きいとみられる。

感染が集中している「ホットスポット」の1つが、イリノイ州シカゴのクック郡拘置所だ。22日に最初の感染例が確認されて以来、収監者89人、職員9人がウイルスに感染した。他にも収監者92人の検査結果が確定していない。

収監者の人権擁護を訴える団体や地元当局者、公選弁護人らは、収監者の釈放を加速するよう呼びかけている。拘置所は通常、刑の確定を待つ[刑事被告]人を比較的短期間収容する施設である。有罪判決を受けて刑が確定した「受刑者」を収容する州・連邦刑務所に比べれば、収容者数を柔軟に管理できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政策金利、今年半ばまでに中立金利到達へ ECB当局

ビジネス

米四半期定例入札、発行額据え置きを予想 増額時期に

ビジネス

独小売売上高指数、12月前月比-1.6% 予想外の

ワールド

トランプ氏の米国版「アイアンドーム」構想、ロシアが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中