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新型肺炎 何を恐れるべきか

【特別寄稿】作家・閻連科:この厄災の経験を「記憶する人」であれ

NEVER FORGET

2020年4月3日(金)12時20分
閻連科(作家)

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人口1100万人が暮らす巨大都市・武漢は新型肺炎の蔓延で完全封鎖され、ゴーストタウンに FEATURE CHINA-BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

今、なぜこんなことを言わなくてはならないのでしょうか。新型肺炎が国中、世界中の災難として、まだ本当にコントロールされてはおらず、感染(の危険)もまだまだ過ぎ去ってはおらず、なくなってもいないからです。

そして今なお、湖北、武漢ないしは全国の他の省および地区で、家族がばらばらになってしまった、家族全員が死に絶えてしまった、と嘆く悲痛な声がまだ耳から離れないというのに、統計のデータが好転しているからといって、トップダウンで、右も左も歓喜に鳴り響く銅鑼(どら)や太鼓、高らかに歌う明るい声を響かせる準備を始めているのを、既に耳にしたり目にしたりしています。

まだぬくもりが残っている遺体を嘆き悲しむ声もやまぬその一方で、今にも凱歌を上げようと、英明にして偉大なる叫び声が今にも鳴り響こうとしています。

未来はのこぎりとおの次第

新型肺炎が一歩ずつ、われわれの生活の中に入り込み始めたときから今日に至るまで、新型肺炎のためにいったいどれだけの人が死んだのか、われわれは本当にはっきりと分かっているわけではありません。──病院で死んだのは何人なのか、病院の外では何人死んだのか。ひいては、まだ調査、確認といったことも間に合っていないのです。甚だしくは、このような調査、確認は、時間の経過とともに終わり、永遠の謎になってしまう。われわれが後世の人々に残すのは、証拠のない記憶の閻魔(えんま)帳なのです。

われわれはもちろん、祥林嫂(シアン・リンサオ、魯迅の小説『祝福』の登場人物で、不幸な身の上を誰彼となく訴え続けて人々から相手にされなくなり、嘲笑される孤独な存在)のように「雪が降る頃には野生動物は食べ物がなくなって村までやって来るのは知っていたけど、春にもやって来るなんて」と、毎日ぶつぶつ言い続けているわけにもいきません。

しかしわれわれは、殴られ、辱められ、死に臨んでも、依然として自分は男の中の男で、自分こそが勝者なのだと信じている阿Q(魯迅の小説『阿Q正伝』の主人公で、愚かなのに自尊心だけは強く、卑屈と傲慢を象徴する人物)であってもならないのです。

人生において、われわれが身を置く歴史と現実の中で、個人でも家庭でも、社会、時代、国家でも悲しい災難はなぜ次から次へと続くのでしょうか。なぜ歴史、時代の落とし穴と悲しい災難は、いつもわれわれ幾千万もの庶民の死と命が引き受け、穴埋めをしなければならないのでしょうか。われわれには知ることのない、問いただすこともない、問いただすことを許されないから尋ねない要素は実に多い。ですが、人として──幾千万もの庶民あるいは虫けらとして──われわれには記憶力がなさ過ぎるのです。

われわれは覚えさせられるとおりに覚え、忘れろと言われるとおりに忘れます。沈黙しろと言われたとおりに沈黙し、歌えと言われたとおりに歌います。個人の記憶は時代の道具となり、集団と国家の記憶が個人の失った記憶あるいは覚えているはずの記憶として分配されました。

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