最新記事

新型肺炎 何を恐れるべきか

【特別寄稿】作家・閻連科:この厄災の経験を「記憶する人」であれ

NEVER FORGET

2020年4月3日(金)12時20分
閻連科(作家)

magSR200403_4.jpg

車がほとんどいない北京市内のメインストリート KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

考えてみてください。君たちと同じ1980年代、90年代生まれの子供たちも経験し、覚えている全国的な災難であるエイズ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、そして新型肺炎は結局のところ人為的災難なのか、それとも唐山地震(河北省、1976年)、汶川地震(四川省、2008年)のような人類があらがい難い、神が下す災難なのでしょうか。前者の全国的な災いにおいて、人為的な要素はなぜ同じように繰り返されるのでしょうか。

とりわけ17年前のSARSと今日の新型肺炎の蔓延と略奪は、まるで同一人物の監督による同じ悲劇に、再び稽古をして出演するかのようです。何の値打ちもないちっぽけなわれわれのような者は、監督が誰なのかと問いただすこともできなければ、原作のシナリオの思いや構想、クリエーティブさを取り戻す専門的な知識もありません。それでも、再びまた稽古する死の舞台の前に立ったとき、少なくとも問うてみることはできます。われわれのものである前回の悲劇が残した記憶はどこへ行ってしまったのか、と。

いったい誰によってわれわれの記憶力は拭い去られ、抜き取られてしまったのでしょうか。

記憶力のないものは、本質において、いわば田野、道の土です。どんなに革靴に踏み付けられようと、容赦なく踏み乱されるしかありません。

記憶のないものは、本質において、かつて生命を断ち切られた丸太や板であり、未来は何の形になるのか、どんなものになるのかは、のこぎりとおの次第なのです。

心の中に疑問符を付ける

いまオンラインにいる香港科技大学の大学院ゼミ生諸君、そして中国人民大学のクリエーティブライティング大学院ゼミの卒業生および勉強中の作家諸君。

われわれにとって──書くことを愛し、生活を意義のあるものにしようという者、生涯角張った文字をよりどころとするわれわれのような者にとって──個人に属する、血と命から来る記憶と記憶力をわれわれまでもが放棄したら、書くことの意味など、これ以上いったいどこにあるというのでしょうか。文学に、これ以上何の価値があるのでしょうか。作品を世に送り続け、懸命に努力を続け、著作が背の高さほども積み上がったとしても、誰かに絶えず糸で操られ、動かされている操り人形とどこに違いがあるのでしょうか。

記者は自ら目にしたものでなければ書きませんし、作家は個人の記憶、感じたことでなければ書きません。社会の世論において、(立場、条件的に)しゃべることができる者と(能力や技術があって)しゃべることにたけている者は、いつも混じり気のない抒情的な国家の節回しで音読し、閲読し、朗唱します。では、われわれがこの世界に生きている意味を、個人の真実、真相と存在する血と肉と命とは何なのかということを、誰がわれわれに教えてくれるというのでしょうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

戦略的に財政出動、経済対策「早急に策定」と城内経済

ビジネス

GDP7─9月期は6四半期ぶりマイナス、自動車など

ワールド

中国、ネクスペリア巡りオランダ経済相を批判 高官の

ビジネス

中国、消費拡大と需給バランス改善を表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中