都市封鎖下のNYラブストーリー 近づく妻との最期
てんかんの発作、そしてアルツハイマー病
1994年、彼らは中国から養女を迎えた。当時1歳だったローレルさんである。ロイスさんは子育てに没頭した。
98年の母の日、きれいな筆記体で書かれた日記で、ロイスさんは喜びを爆発させている。「今日は、本当に素晴らしい朝で始まったことを書いておかなければ」 4歳のローレルさんが母親のベッドまで、チョコレートをかけたドーナツとホットコーヒーという朝食を持ってきてくれた、と彼女は書いている。
ロイスさんは、日記を書く理由の1つとして「いつの日か娘が読めるように」と書いている。「ローレルの生い立ちについて、私ができるだけ記録しておくことはとても大切だ。家族のエピソードや病気、災害など、彼女を特定の時代、場所、個人に繋げてくれるような絆は、中国の家庭とのあいだには何もないのだから」
ロイスさんには、スタジオでゴールドのジュエリーを作るという仕事もあった。だが2000年代初頭には、その後を予感させる微かな兆しが現われていた。夜間にてんかんの発作を起こしたことが1回あり、忘れっぽくなっていった。
2008年、ロイスさんはてんかんであることがわかり、2010年初めにはアルツハイマー病と診断された。
「すべてが変わった」とハワードさんは言う。「だが私は単に創作生活を調整しただけで、絵を描くときにロイスと一緒にいるようにして、彼女の介護をした」
父を気遣う娘
ロイスさんがアルツハイマー病の診断を受けてから数年、ハワードさんは彼女と共に家にいることが多くなった。症状が進むにつれて、入浴や食事、トイレの使用が困難になっていった。2015年に介護施設に移る前、ハワードさんは最後にロイスさんをパリに連れて行った。この旅行のときの写真には、レストランで空のワイングラスを持つロイスさんが映っている。
「その頃には、1杯飲んだか2杯飲んだかも忘れるようになっていた」とハワードさんは言う。
ハワードさんは粘り強くロイスさんについての情報を得ようとしてきた。
今年3月末、彼はニューパルツ・センターの医師から心強いメールを受け取った。その1節には、「今日ロイスさんを診察し、よい状態だったことをお知らせしたいと思います。彼女は朝食を完食し、車椅子で立ち上がりました」と書かれていた。
その後、気掛かりな動きもあった。ハワードさんは、嚥下機能に問題のあったロイスさんが最近の食事で3回嘔吐したことを知った。それから地元メディアの報道で、近所の高齢者施設内で新型コロナウイルスによる死亡例があったこと、同じ地域の他2施設でもそれぞれ最初の感染例が報告されたことに気づいた。
また、ドイツ、スイスの美術館・画廊からは、彼の作品展が中止されたとの連絡があった。世界中で美術館は閉鎖されている。人々が同じ空間で美術を鑑賞することはあまりにも危険なのだ。
「こうしたことで思い悩んではいない」とハワードさんは言う。「ただ、この呪わしいウイルスを制圧したい」
介護施設に移ってから、ロイスさんは衰弱の段階に入った。当時、介護スタッフはハワードさんに、ロイスさんはあまり長くは生きられないだろうと告げた。だが驚いたことに、彼が頻繁に訪問するあいだに、ロイスさんは何度か死の瀬戸際から回復することができた。
「彼女がどれほど粘り強いか、誰も分かっていなかったと思う」と彼は言う。
一部の介護施設は、外部からの訪問禁止の例外を少なくとも1つだけ認めている。入居者に死が迫ったとき、家族1人が最後に訪問することができる。だがハワードさんは、そのような形での訪問には何の興味もない、と言う。彼が訪れるのは、ロイスさんを生き延びさせるためなのだから。
(翻訳:エァクレーレン)
[ニューヨーク ロイター]

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