最新記事

世界経済

ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る

The Post-Pandemic Economy

2020年4月23日(木)15時30分
ジョセフ・スティグリッツ(ノーベル賞経済学者)ほか

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界経済の麻痺をもたらした ILLUSTRATION BY IRINA SHIBANOVA/ISTOCK

<未知のウイルスとの戦いが続くなかで、雇用や企業活動は元に戻るのか、従来型の金融・財政措置で未曽有の不況は回避できるのか>

グローバル化と経済自立、そのバランスが焦点に

ジョセフ・スティグリッツ(ノーベル賞経済学者)

多くの経済学者は、政府が自国の食料安全保障やエネルギー安全保障政策を担保するべきだという考えを嘲笑してきた。グローバル化の時代に国境は意味を持たない。自国の食料事情やエネルギー事情に不足があるなら、国外から調達すればいいというのだ。

だが今、多くの国がマスクや医療物資の確保に血眼になり、外国への供給を禁止するなか、にわかに国境が大きな意味を持つようになった。コロナ危機は、政治や経済の基本的な単位は、依然として国家であることを強烈に思い起こさせてくれた。

これまで私たちは、最安値でモノやサービスを供給してくれる業者を世界中から探し出し、一見非常に効率的なサプライチェーンを構築してきた。だが、そのシステムは弾力性や多様性に欠け、想定外の混乱に弱いものだった。

2008年の金融危機で、私たちは弾力性がいかに重要かを学んだはずだった。複雑に絡み合った金融システムは、小さな衝撃は吸収できても、実のところひどく脆弱で、政府の大規模な救済がなければ、崩壊していただろう。その教訓は明らかに忘れられていた。

パンデミック後の経済システムは、より長期的な視野と弾力性に富むものになるだろう。各国は経済のグローバル化を図ると同時に、一定の経済的自立を維持するために、バランスの取れた政策が求められるようになるだろう。

戦争のような意識が大変革を可能にする

ロバート・シラー(エール大学教授)

歴史を振り返ると、物事を根本から覆す事件が時々起こるものだ。戦争がその役割を果たすことも多い。コロナ危機は、まさに戦争のような緊急事態の意識をもたらし、これまで不可能だった変革を一気に進める可能性がある。

ウイルスという共通の敵は、国内だけでなく世界の結束も促している。先進国の住民は、同じ病に苦しむ貧困国の住民に、これまでにない共感を覚える。また、ビデオ会議を通じて、世界各地に点在する人が1カ所に集まっている。しかもそうした集まりが、現在無数に開かれている。

このパンデミックは、新しい政治的・社会的枠組みを生み出す可能性もある。ここ数年、社会保障政策としてベーシックインカムの導入が話題になってきたが、本格的な議論は進んでこなかった。ところがコロナ危機で、多くの国は仕事を失った人に一律の緊急支援金を給付しようとしている。これは平時のベーシックインカムの呼び水になるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中