最新記事

コロナショック

新型コロナウイルスの都市封鎖で経済悪化 インドネシア、最悪520万人が失業の危機

2020年4月18日(土)21時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

あの手この手の政府の救済策

こうした厳しい経済状況にジョコ・ウィドド大統領は経済閣僚と度々テレビ会議を開催して手厚い救済策の実施を指示、これを受けて関係各省庁はあの手この手の対応策をこれまで打ち出している。

まず財務省税務局はPSBBの営業自粛対象外である食料、流通、通信、貿易などの11分野の指定産業に対する法的優遇措置を発表。内容は所得税の一時停止、法人税の減税、輸入関税の一時停止などとなっている。

また医療関係者の所得税、医療品・医療サービスの付加価値税を9月まで免除することによって全国各地で新型コロナ感染者の治療や検査などに従事する人々への支援を手厚くするという。

さらに増大する失業者対策として失業者カードによる登録を進め、約550万人を上限に毎月255万ルピア(約1万8000円)を4カ月間支給することなどを含む「希望の家族プログラム」を進めている。

一般向けの経済対策は所得水準で区別され、現金支給のほかに約2000万世帯を対象にした対策では「スンバコ」と呼ばれる米、食用油、砂糖、塩、卵などの食料品(約60万ルピア相当)を配布するほか、所得に応じて電気料金の全額あるいは半額免除を実施する方針を明らかにしている。

新型コロナウイルス対策で休業あるいは操業短縮となった企業でローンを抱えている場合は、申請に基づき「ローン返済期限の最大1年延期」「金利軽減措置」などを内容とするローン再編措置を金融庁が各銀行に要請。すでに約1万5000件の申請が企業から届き、金融機関で適用企業の審査が現在続いているという。

社会不安の増大への懸念

インドネシアでは政府が新型コロナウイルス対策に手一杯の状況の中で、スラウェシ島やジャワ島などでイスラム教テロ組織「「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」や「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」のメンバーの逮捕、射殺、武器押収がこのところ増えている。さらにPSBBで閑散とした都市部で夜間の強盗や窃盗などの犯罪も報告されているという。

こうした不安定な社会情勢の中で急増する失業者や生活困窮者が生活不安、食料不足などを理由にデモや集会、さらにそれが略奪や騒乱に拡大することをジョコ・ウィドド大統領や治安当局は極端に警戒している。

首都ジャカルタの主要道路や鉄道駅、バスターミナルなどに設けられている検問所には行政当局、交通当局関係者や警察官に交じって陸軍兵士も配置され、テロリストとともに犯罪者や社会不安を煽る扇動者などの首都圏流入に警戒監視の目を光らせる状況となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・新型コロナウイルス、モノの表面にはどのくらい残り続ける?
・中国・武漢市、新型コロナウイルス死者数を大幅修正 50%増の3869人へ
・イタリア、新型コロナウイルス新規感染者は鈍化 死者なお高水準
・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(17日現在)


20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米キャンター、SBGなどとビットコイン投資企業設立

ビジネス

トヨタの3月世界販売7.9%増 海外は過去最高 北

ビジネス

中国、外資参入規制を緩和 25年版ネガティブリスト

ビジネス

米関税措置が為替含め市場に波及、実体経済に悪影響=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中