新型コロナウイルスの都市封鎖で経済悪化 インドネシア、最悪520万人が失業の危機
あの手この手の政府の救済策
こうした厳しい経済状況にジョコ・ウィドド大統領は経済閣僚と度々テレビ会議を開催して手厚い救済策の実施を指示、これを受けて関係各省庁はあの手この手の対応策をこれまで打ち出している。
まず財務省税務局はPSBBの営業自粛対象外である食料、流通、通信、貿易などの11分野の指定産業に対する法的優遇措置を発表。内容は所得税の一時停止、法人税の減税、輸入関税の一時停止などとなっている。
また医療関係者の所得税、医療品・医療サービスの付加価値税を9月まで免除することによって全国各地で新型コロナ感染者の治療や検査などに従事する人々への支援を手厚くするという。
さらに増大する失業者対策として失業者カードによる登録を進め、約550万人を上限に毎月255万ルピア(約1万8000円)を4カ月間支給することなどを含む「希望の家族プログラム」を進めている。
一般向けの経済対策は所得水準で区別され、現金支給のほかに約2000万世帯を対象にした対策では「スンバコ」と呼ばれる米、食用油、砂糖、塩、卵などの食料品(約60万ルピア相当)を配布するほか、所得に応じて電気料金の全額あるいは半額免除を実施する方針を明らかにしている。
新型コロナウイルス対策で休業あるいは操業短縮となった企業でローンを抱えている場合は、申請に基づき「ローン返済期限の最大1年延期」「金利軽減措置」などを内容とするローン再編措置を金融庁が各銀行に要請。すでに約1万5000件の申請が企業から届き、金融機関で適用企業の審査が現在続いているという。
社会不安の増大への懸念
インドネシアでは政府が新型コロナウイルス対策に手一杯の状況の中で、スラウェシ島やジャワ島などでイスラム教テロ組織「「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」や「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」のメンバーの逮捕、射殺、武器押収がこのところ増えている。さらにPSBBで閑散とした都市部で夜間の強盗や窃盗などの犯罪も報告されているという。
こうした不安定な社会情勢の中で急増する失業者や生活困窮者が生活不安、食料不足などを理由にデモや集会、さらにそれが略奪や騒乱に拡大することをジョコ・ウィドド大統領や治安当局は極端に警戒している。
首都ジャカルタの主要道路や鉄道駅、バスターミナルなどに設けられている検問所には行政当局、交通当局関係者や警察官に交じって陸軍兵士も配置され、テロリストとともに犯罪者や社会不安を煽る扇動者などの首都圏流入に警戒監視の目を光らせる状況となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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