「感染は神のみぞ知る、心配無用」 新型コロナウイルス感染4人になったインドネシア
日本大使館が企業対象の「新型肺炎セミナー」
こうしたなかジャカルタの日本大使館では6日に「新型肺炎に関する情報提供(セミナー)」が大使館とジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)、ジェトロ・ジャカルタ事務所の共催で実施した。ただ参加者によると日本の新聞テレビなどのマスコミ関係者はシャットアウトされ、JJC法人部会の会員、つまり日本航空などの日系企業を対象に限定し、参加企業の一部には暗に「内容を公表しないように」求められたという。
その一方で大使館はセミナーの内容に関して質疑応答を含めて大使館のホームページですでに公開している。このためメディアの参加を「遠慮」(セミナー案内書)してもらい、参加した企業には公表を控えるよう求めたセミナー当日の対応との矛盾も指摘されている。
日本大使館は「参加者、内容に関する制限などはJJCの仕切りで大使館は直接関与していない」としている。またジェトロもこの件については関知していないとしており、JCCについては週末であることもあり、筆者の問い合わせに対しこれまでのところ回答は来ていない。
いずれにしろ、一部のインドネシア人による「日本人に対する冷たい視線」や「心ない差別」を針小棒大に解釈することはこれまでの日本・インドネシアの友好関係に水を差すことにもなりかねない。
「嫌がらせのホットライン」を設置することと同時に買い占めに走る在留邦人や「感染源の可能性が高い」としたインドネシア保健省へのさらなる配慮を要請すること、加えて一般のインドネシア人などに対する積極的な情報発信、丁寧な説明が今後は求められるだろう。
政府も感染者プライバシー保護に乗り出す
ジョコ・ウィドド大統領は4日、感染したインドネシア人の個人情報が外部に流失しないよう医療関係者、保健当局者に要求した。2日に初の感染が確認された母娘2人に関してジャカルタ南部の2人の自宅がテレビで放映されたり家族の写真、実名までがネット上でさらされたり、プライバシー侵害が起きており、そうした状況に危機感を抱いたためだ。
実際コンパス紙が隔離治療中母親との電話インタビューで「自分たち家族の写真をネット上で拡散させるのは止めてほしい」と"直訴"していたほどだ。
こうした感染者のプライバシー尊重の立場からその後新たに感染が確認された2人は、政府発表では感染者03、04と表現されるに止まり、感染者個人が特定されないように最大限の配慮がなされている。
ジャカルタの日系企業に関しても、インドネシア人従業員から日本人社員全員にマスク着用を強要された会社やマレーシアからジャカルタを訪問していて母娘の感染源とみられた日本人女性をジャカルタ滞在中にアテンドした会社などに関する情報が在留邦人の間では実名を伴って飛び交っている。
パニックになっているのはインドネシア人だけでなく、在留邦人も同じことであり、ニュース報道などで伝えられる日本や韓国、シンガポールなどの状況に左右されることなく、これまで通りの「手洗い、マスク、人混み回避」などの自衛策で日常生活を冷静に送ることが重要と医療関係者も強調している。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など