新型コロナウイルスは人類への警鐘──感染症拡大にはお決まりのパターンがある
THIS OUTBREAK IS A WAKE-UP CALL
一方で、人類は間違いなく進歩している。SARSの経験を持つ中国は今回、いち早く人への感染を把握し、発生の初期段階で情報を公開し、対応の透明性を高めた。国内の研究者らが新型ウイルスの遺伝子配列を公表したのも、過去の経験に一定程度学んだ成果と言える。
だが現時点で新型コロナウイルスによる肺炎を治療できる薬は見つかっておらず、ワクチンも開発されていない。個別の症状を緩和する手段はあるが、ウイルスを撃退する有効な方法は見つかっていない。
中国当局は国民の移動や大規模な集会の禁止、休校・休業などの強硬措置を講じ、人口1000万を超す大都市・武漢の封鎖にも踏み切った。都市全体の封鎖は住民のパニックや、物資の不足などによる混乱を招きかねない。こうした対応の是非は、感染拡大の抑制に有効だったかどうかで評価される必要がある。
また複数の近隣諸国が渡航者の検査や中国滞在者の入国制限を実施し、航空会社も中国発着便の運航中止などの措置を講じている。アメリカも、最近中国へ旅行した外国人の入国を禁じると発表した。
適切な対策を講じるためには、時間をかけて熟考し、体系的に取り組むことが望ましい。防疫体制の脆弱な国々は、もともと公衆衛生の体制が整っていない。相対的に整っている国々も、早期発見と即応能力では決して万全といえない。
WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言した理由の1つは、問題意識を高め、脆弱な国々を助けることにある。もしもウイルス検査や感染経路追跡のインフラを欠く国に感染が広がったら、当該国のみならず世界中の人の健康が危うくなる。感染症に対する各国の備えを指標化した世界健康安全保障(GHS)指数によると、パンデミックに対して完璧な備えを持つ国は存在しない。
アウトブレイクを防ぐ努力
人は危機に見舞われると目が覚める。だが、すぐにまた目覚まし時計のアラームを消してしまう。WHOはSARSの流行を受けて体制を見直した。多くの国が連携し、迅速な対応を調整するため、各国に担当者を配置した。だがエボラ出血熱のときも、多くの国の公衆衛生インフラは依然として脆弱だった。
いま私たちは危機の真っただ中にいる。はっきりと目が覚めている。今のうちにアウトブレイク(感染症の爆発的拡大)についての考え方を改めるべきだ。個別の事例への対応だけでなく、アウトブレイクという事態の再発を未然に防ぐ努力をすべきなのだ。