最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは人類への警鐘──感染症拡大にはお決まりのパターンがある

THIS OUTBREAK IS A WAKE-UP CALL

2020年3月6日(金)15時40分
マーガレット・ハンバーグ(米科学振興協会理事長)、マーク・スモリンスキー(エンディング・パンデミックス代表)

magSR200306_corona3.jpg

2月18日号「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集20ページより

原因ウイルスが特定されたのは、その1週間後だ。既に患者は41人に増えていた。その2日後には最初の死者が出た。政府の報告から1カ月後には感染者が1万7000人を超え、死者数は300人を突破した。中国本土以外にも20を超える国と地域で感染が確認され、WHOは1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

目を覚まそう。思い出そう。未知の、想定外の病原体がもたらす脅威に、私たちはあまりにも無力だ。抗生物質の効かない耐性菌が出現する可能性もあり、気候変動や人口移動の影響で、既知の病原体が意外な場所で増殖する恐れもある。

今の時代、病原となるウイルスや菌はあっという間に遠くまで拡散する。世界の果てで発生した病気が、明日には私たちの近所まで迫っているかもしれない。それだけ人は危険な状況に置かれている。

この新型コロナウイルスは、そうした脅威の典型的な例だ。ここ数十年に発生した新たな感染症のほとんどは、ウイルスの「宿主」である動物に由来している。動物由来感染症の病原体は、宿主である動物には害を及ぼさない。だが宿主から人へ、直接感染することもあり、蚊やダニ、ノミなどの「媒介動物」を経由して人に感染することもある。

動物由来感染症は毎年のように発生しており、そのいずれもが新たなパンデミック(世界的な感染拡大)となる可能性を秘めている。

こうしたパンデミックはある程度まで予測可能だが、各国の公衆衛生当局はその都度、新たな謎解きに挑まねばならない。今世紀におけるコロナウイルスの深刻な感染症は、2002年から03年にかけて発生したSARSに始まる。今回と同じく中国で発生し、コウモリを宿主とし、ハクビシンが媒介して人に感染したと考えられている。終息までに29カ国で8098人が感染し、774人の死者が出た。一方、2012年にサウジアラビアで発生し、やはりコウモリからラクダ経由で人に感染したMERSは27カ国に広がり、SARSを上回る806人の死者を出した。

今回の新型コロナウイルスはどうか。今のところ、インフルエンザほどの脅威になることはなさそうだ。インフルエンザも、やはり動物由来の感染症だ。通常の季節的なインフルエンザの場合、死亡率は感染者の0.1%程度だ(ただし高齢者や持病のある人では死亡率が高まる)。インフルエンザは毎年のように何万人もの死者を出している。死亡率は低くても感染者数が圧倒的に多いため、結果として死亡者は増えてしまう。SARSの致死率は約10%、MERSの致死率は約35%と高かったが、幸いにして感染力はインフルエンザほど強くなかった。

入国制限は有効だったか

今回の新型コロナウイルスの感染力は、まだ不明だ。感染の仕組みも解明されていない。このウイルスが突然変異を起こし、感染力が高くなれば壊滅的な結果を招く可能性がある。逆に、突然変異で重症化率が下がり、感染力も弱まれば、SARSと同様に自然消滅に向かう可能性もある。現段階では何とも言えない。分からないことが多過ぎる。

だが今回の感染拡大によって、既に観光業や貿易、経済全般が打撃を受けている。政府機関への信頼も大いに揺らいだ。本物のパンデミックは人類の存続をも脅かす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中