クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実
A DAUNTING BUT DOABLE MISSION
大規模災害対策に必須のCSCA、すなわちCommand & Control(指揮、統制)、Safety(安全)、Communication(情報伝達)、Assessment(評価)が十分にできていたのかは、きちんと分析・検討する必要がある。
知識はあっても経験がない。戦略、活動目標や実施計画、作業手順書を作りたくても時間がない──。そんな場合にどうしたらよいか。具体的な方策を考える必要がある。
一般に、タテの指揮命令系統が明確でない、機関や組織間のヨコの連携がうまくいかない、統制が取れない、というのは危機管理では致命傷となる。ここで私が重要と思っていることは「見える化」だ。
誰がどのような役割と権限を持ち、どのような命令・指揮で動くのか、また誰と誰がどのような連携や協力を必要とし、どのような統制を必要としていくのか、できるだけ単純明快に可視化することだ。
初めから完璧なオペレーションは難しい。毎日課題をチェックし、改善を加えながら、よりよいものに進化させていくのだ。
では、最終的にこの介入は成功したのだろうか。クルーズ船で700人以上が感染したと聞くと、それは失敗だ、誰のせいだ、となる。実際に、このことで、身を粉にして働いた災害派遣医療チーム(DMAT)や厚生労働省の職員などに罵詈雑言を浴びせる人々も多いらしい。
これには、データに基づいた冷静な分析と判断が必要だ。第3回の「新型コロナウイルス感染症専門家会議」(2月24日開催)に提出された資料を見る限りでは、検疫介入を始めた2月5日以降の発症者の多くは潜伏期を考慮すると介入前に感染したもののようで、感染者数の推移からは介入の効果は認められる。
専門家によるさらなる分析や議論を期待しているが、少なくとも私が途上国で経験した「コントロールに失敗したアウトブレイク」の様相ではなく、この過酷な環境でよく頑張ったと言える。
ただし、乗客の感染拡大には効果を示しながら、昼夜を問わず乗客を支えてきた乗務員、命懸けで乗客の命を守ろうとした検疫官や医療従事者、政府関係者などが感染したのは残念だ。必死に働き、非難・中傷を受け、その上に感染。まさに過酷なミッションであった。その労はねぎらわれるべきだ。