クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実
A DAUNTING BUT DOABLE MISSION
では、結局、14日間の停留期間で船内での感染拡大は防げたのか。日本政府の対策は間違っていたのかについて、議論が起きている。
途中船内に入り、下船させられたため、その状況をYouTubeで発信した岩田健太郎教授(神戸大学)、それに対して事実関係の違いを指摘した高山義浩医師のフェイスブックのコメントが世間を騒がせた。2人とも友人同士で、私もまた彼らをよく知っている。
2人とも、この危機的状況から日本を救うために尽力したい、という熱い思いは同じだった。だが、なぜか公然と食い違いを指摘しなければならない結果になった。
もちろん、2人とも大人なので、その後は冷静に意見交換をしていたようだ。一方、外野は感情的になり、彼らに対してさまざまな非難や中傷を浴びせている。
岩田氏の問題提起はよく分かる。正論とも言える。ただ、オペレーションはそう簡単なものではない。特に船内という特殊環境で、その船は外国籍、言葉や文化の異なる3000人以上の乗客・乗務員を守るために「見えない敵」と闘う。まさに人類史上経験のない、最悪のシナリオであった。
「分かっちゃいるけどできない」ことをどう実行するか。毎日が闘いであり、苦労の連続である。実際に参加した友人や知人の苦悩を聞いて、まさにそう思った。
「見えない敵」との闘い方
私は96年の在ペルー日本大使公邸占拠事件(600人以上が人質になった)や08年のミャンマーでのサイクロン「ナルギス」災害(13万人以上の死者・行方不明者)、11年の東日本大震災での宮城県や石巻市の現地対策本部など、さまざまな緊急事態で多様な組織・機関・セクターを巻き込むオペレーションに参画したが、専門知識や技術を持っていることと、それを実際にオペレーションに落としていくことは別の話だと痛感した。
これらの経験から、危機管理や緊急対策の成功の10%は戦略(知識や専門技術を含む)、90%はオペレーション(ロジスティクスや調整も含む)に懸かっていると言える。ただし、この10%の戦略がきちんと作られていたのか、活動目標や実施計画、作業手順などが共有されていたのか、それに沿ったオペレーションができていたのか。