最新記事

中国

欧州などに医療支援隊を派遣する習近平の狙い:5Gなどとバーター

2020年3月16日(月)13時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

――イタリアの友人であり全面的な戦略パートナーとして、中国はイタリアが直面している困難を十分に理解しており、イタリアを全面的に支持する。疾病には国境はなく、疾病は人類共通の敵であり、国際社会が団結して対応しなければならない。中国はあくまでも人類運命共同体という理念に基づき、中国人民の健康安全を保障しなければならないと同時に、全世界の公共衛生安全事業に貢献しなければならない。目下、中国はWHOに献金し、防疫の国際協力に貢献し、疫病感染が厳しい国あるいは医療条件が脆弱な国に可能な限りの支援を行いたいと思っている。

ここで「えげつなく」ストレートに「一帯一路協力をゆめゆめ忘れるなよ」とは言ってないが、全体のトーンからして、そういう念を押したことになる。

中国外交部報道官:欧州と感染対応の協力を強化

3月12日、中国外交部の耿爽報道官は、中国と欧州は常に密接な交流と協力を保ってきたとして、ローマ帝国時代の哲学者で政治家だったセネカの言葉「私たちは同海之浪(同じ海原の波)であり、同樹之葉(同じ木の葉)であり、同園之花(同じ花園に咲く花)である」を引き合いに出した。

中国の国家衛生健康委員会や中国疾病制御センターは、EU委員会保健衛生・食品安全総局や欧州疾病制御センターと共に新型コロナウイルス肺炎に対応する聯合専門家チームを立ち上げたという。ハイレベル専門家チームのトップである鍾南山は既に欧州呼吸学会の責任者とテレビ会談を通して中国が新型コロナ肺炎に如何にして闘い成功を収めたか、そのノウハウを伝授したとのこと。

中央テレビ局CCTVは最後に「われわれは必ず全世界の防疫闘争に勝利を収めることができる」と締めくくった。

李克強が発したシグナル?

話がここでは終わらないのが、中国の中国たる所以だ。

3月13日、李克强国務院総理は「さらなる改革開放を成し遂げなければ、外貿外資は安定しない」と語ったとCCTVや中国人民政府のウェブサイトが伝えた。

李克強は13日、全国市場運営・流通発展サービスプラットフォームと貿易・外資協調メカニズムを視察したのだが、李克強は今「中央新型コロナウイルス肺炎対策工作指導グループ(組)」のグループ長(組長)である。

その李克強が「貿易と外資の安定化」を強調したということは、中国はこれを契機に経済復興へと着手することを意味し、「一省包一国」システムによって支援した国を、今後また新たな経済圏へと誘い込んでいくというシグナルを発したことを意味するのである。その詳細に関しては、今後徐々に解き明かしていくつもりだ。

(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所の論考から転載した。)

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中