世界最大のイスラム教国に新型コロナウイルスの脅威 5月断食月明けの帰省禁止検討、インドネシア
1カ月前までは感染ゼロを誇っていたインドネシアも今では首都ジャカルタで消毒剤が噴霧されるように。 Ajeng Dinar Ulfiana-REUTERS
<世界第4位という約2億6000万人の人口のうち約88%がイスラム教徒というインドネシアは、断食月が近づくにつれ感染症対策が課題に>
世界最大のイスラム教徒を擁する東南アジアの大国インドネシア。そのイスラム教徒が厳しい局面にさらされている。新型コロナウイルスの感染者は1日約100人のペースで急上昇、死者もそれにつれて増加。周辺国でも突出した8.84%前後の死亡率になり、敬虔なイスラム教徒の宗教生活にも深刻な影響をあたえようとしているのだ。
宗教指導者の副大統領、断食月明け休暇を中止の見解
4月23日前後から約1カ月続く断食月(プアサ)はイスラム教徒にとって重要な5つの義務(5行)「信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼」の一つでもある「断食」を行う一カ月に及ぶ重要な宗教的義務である。
期間中は日の出から日没まで一切の飲食、喫煙を断ち、厳格には唾をのみ込むこと、淫らな妄想を抱くことも禁忌とされている。そして1カ月に及ぶ断食が終わる5月23日前後から始まるのがレバラン(断食明け大祭)休暇というもので、日本のお盆と正月が一度に来たような長期休暇となる。
そのレバラン休暇の帰省を「ムディック」というが、3月26日にマアルフ・アミン副大統領が個人的見解と断りながらも「今年はムディックを禁止した方がいいと思う」と発言して大きな衝撃を国民に与えた。
マアルフ・アミン副大統領はイスラム教の指導者として絶対的な影響力があることから、その発言には単なる政府首脳の呼びかけ以上にイスラム聖職者の発言としての重みもあるためだ。
マアルフ・アミン副大統領は「帰省の途中や帰省後の故郷での家族らとの集まりを通してコロナウイルスが感染拡散する危険がある。危険があればそれを回避することも宗教者としては重要である」と述べ、今年に限っては故郷の家族や親戚、知人とは「ソーシャルネットワークを通じて交流すればいいではないか。帰省はまたいつでもできる」との見解を示したのだった。
半年以上前から航空券などが売り切れ
レバラン休暇は通常は1週間から10日前後に及ぶ長期の休みとなり、インドネシア人にとっては1年で最大の休暇であることから故郷へ帰省する国民、あるいは海外旅行に出かける富裕層など「民族大移動」の時期となる。
その数は約2000万人ともいわれ、この休みの前後の国内線航空便、鉄道、航路、長距離バスなどの切符は売り切れになり、道路も大渋滞となるのが通例だ。
官庁や民間企業も長期休暇となり、個人宅で働く運転手や女中、門番などイスラム教徒に限らず全ての国民が帰省することから、日本人駐在員を含む多くの外国人もこの時期に合わせて海外旅行や一時帰国をするため、国際線航空券もすでに半年以上前から売り切れ、空席待ちという状況が続いている。