世界経済を狂わせる新型コロナウイルスの脅威──最大の影響を受けるのは日本
FEARS OF A GLOBAL RECESSION
シンガポールは今年の成長見通しを下方修正し、経済活動が失われた分を数十億ドル規模の景気刺激策で埋め合わせる計画だ。タイも同様に成長見通しを引き下げ、マレーシアもダメージを食い止めるために景気刺激策の導入を検討している。
しかし最大の難関に直面しているのは、中国以外で最も感染者が多い日本(クルーズ船旅客などを含む)かもしれない。日本では2019年第4四半期の経済成長率が約6年ぶりに大幅に縮小。トヨタや日産などの自動車メーカーは中国と国内の工場で生産に影響が出ている。中国からの観光客も大幅に減っている。
景気後退に陥るリスクが高まるなか、日本政府は昨年末に大規模な経済対策を策定した。全面的な危機を回避するには、さらに政府支出を増やして景気を刺激する必要があるかもしれない。
米欧貿易摩擦が激化する恐れ
新型コロナウイルスは、中国からさらに離れた場所にも被害をもたらしている。中国と欧州を結ぶ巨大な広域経済圏構想「一帯一路」関連のプロジェクトに東南アジア周辺で取り組んでいる中国企業は、サプライチェーンや従業員不足の影響で、今後確実にプロジェクトの遅延やコスト高騰に悩まされる。中国の最大の貿易パートナーであるブラジルでは、感染拡大の影響で年内に経済成長が減速に向かうと予想されている。
さらに中国経済の低迷は、中国への農産品やエネルギー、各種製品の輸出を大幅に増やそうとしているアメリカの足も引っ張る可能性が高い。そうなれば、経済的に逼迫しているアメリカの農業地帯や工業地帯の回復が遅れることになりかねない。
ヨーロッパも懸念を強めている。既にフォルクスワーゲンなどの自動車メーカーでは、中国国内にある工場の生産に影響が出ており、サプライチェーンの一層の混乱がヨーロッパ域内の工場にも影響を及ぼすのではないかと懸念されている。
ドイツの投資家は最悪の事態を恐れている。昨年のドイツ経済は重要な自動車部門の見通しが暗かったため、製造部門全体に勢いがなかった。ドイツの欧州経済研究センターが18日に発表した2月の景気期待指数は、投資家心理の冷え込みを反映。投資家は新型コロナウイルスの感染拡大が世界貿易に大きな悪影響をもたらし、輸出主導のドイツ経済の回復を頓挫させると懸念している。
これを受けてユーロは一時的に、対ドルでほぼ3年ぶりの安値に下落。ドナルド・トランプ米大統領は、価値の下落した外貨からの不公平な競争に強硬姿勢を取り続けている。アメリカとヨーロッパの貿易摩擦が、新型コロナウイルス禍によってさらに激化する恐れも出てきた。
<本誌2020年3月3日号掲載>
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