新型コロナウイルス、世界へ拡散させた「シンガポールルート」
恐怖が身近に迫る
サーボメックスの首脳陣チームや海外営業部門の従業員などの社内メールに基づくと、会議から1週間余りたってから、マレーシアで最初の感染症例が出現した。ウイルスの潜伏期間は最長14日で、キャリア(感染者)が発症前に別の人々に感染させることもあり得る。
同社は、ウイルスを抑え込み、従業員と地域社会を守るための「幅広い措置」を直ちに講じたと表明し、109人の会議出席者全員を個別に隔離した。このうち94人はシンガポール国外から会議に参加し、既に同国を離れていた。
ウイルスは広がり続けた。
マレーシア人感染者とビュッフェで食事を共にしていた韓国人2人が発症。また、このマレーシア人からは姉妹と義理の母にも感染した。シンガポール人の会議出席者3人からも陽性反応が出た。
その後は欧州に飛び火。ウイルスに感染した英国人出席者がフランスのスキー場に向かって、そこで5人が発症した。スペインでも因果関係がありそうな感染例が確認され、この英国人がイングランド南部の地元に戻ると、ウイルスの拡散がさらに進んだ。
地元の学校の発表によると、学校は2人を隔離対象にした。同じ学校に子供が通っているナタリー・ブラウンさんは「1分前まで中国の話だったのが、次の瞬間に文字通り、自分たちの家の玄関前の階段のところまで来ている。感染拡大の速さは驚くほどで本当に怖い」と語る
時間切れ
シンガポールに舞台を戻すと、当局は国内で新たに広がっていくウイルス感染を追跡し続けるのに四苦八苦だったが、この多くは最初の感染例とは無関係だった。
グランドハイアット・シンガポールの経営陣は、ホテル内を徹底的に清掃するとともに、従業員と客に感染者がいないかどうか監視していると述べたが、1月の会議の出席者が「いつ、どこで、どのように」感染したかは分からないと頭を抱える。会議の光景をフェイスブックに投稿した獅子舞の踊り手たちは、自分たちはウイルスに感染していないと話している。
シンガポール国立大学の感染症専門家ポール・タンブヤー氏は「会議に出席した者がペーシェント・ゼロだと誰もが決めつけるが、清掃担当者かもしれないし、ウェイターかもしれないのだ」と語り、ほかの感染経路の可能性を突き止めるためにも、ペーシェント・ゼロを見つけることがとても重要なのだと付け加えた。
とはいえ時間はなくなりつつあるかもしれない。
シンガポールのケネス・マク保健相は、政府として感染拡大が終息するまでペーシェント・ゼロを特定する努力を続けると宣言したが、時間が過ぎれば過ぎるほど実現は難しくなる。マク氏も「ペーシェント・ゼロが誰か、もう永遠に分からなくなるかもしれない」と本音をのぞかせた。
(John Geddie/Sangmi Cha/Kate Holton記者)