韓国でMERSが拡大した理由──国民の生命より体制維持を優先する「持病」とは
Seoul’s Chronic Problem
強気な態度を崩さなかったサムスン病院が急転直下、謝罪に応じたわけだが、これを疑問視する声もある。メディア関係者の間では韓国政府が普及を進めている遠隔医療に関して、サムスンソウル病院が何らかの恩恵を受けるとの噂が流れている。謝罪で事態を収束させるため、政府が「恩恵」を取引材料として用意したのではないかと指摘されており、野党もこの問題を国会で追及する構えだ。
財閥に対して厳しい対応が取れなかった朴は、自身の約束をほごにしたことにもなる。
朴は2年前の大統領就任演説で、財閥が独占する経済をより開かれたものにする「経済民主化政策」を主要政策の1つに掲げていた。その実現に向けて、財閥企業の「貯金」である内部留保に課税するなど具体的な政策を打ち出した。だが、その後は遅々として財閥の「不正常さ」をただす動きは見られない。
財閥と政府の癒着だけでなく、もう1つの「持病」も発症した。事態の真相究明を求める行為を、政府がつぶそうとする動きだ。
「情報公開」市長を捜査
MERS感染に関して「情報封鎖」を続けていた政府に業を煮やしたソウル市の朴元淳(パク・ウォンスン)市長は今月4日深夜、記者会見を開いて感染医師の行動を公表した。
中央政府の力が極めて強い韓国にあって、その方針に逆らうのは簡単ではない。案の定、朴市長は衛生当局から強く非難された。
地元メディアは「政府が市長を批判する資格はない」と朴の対応を擁護したが、「医療革新闘争委員会」を名乗る市民団体が先週、「虚偽の事実を流布し国民の不安をあおった」として朴を告発。ソウル中央地検がすぐ捜査に着手したことが明らかになった。
韓国では政府にとって都合の悪い人物や組織が「市民団体」によって圧力を加えられるケースが少なくない。昨年10月、朴大統領の名誉を棄損したとして産経新聞の加藤達也前ソウル支局長を告発したのも「ある市民団体」だった。
国家的な惨事が起きたとき、原因究明や政権批判を韓国政府が封じるのは、「いつかどこかで見た風景」だ。昨年4月の旅客船セウォル号転覆事故で朴政権は、事故の真相究明を求めたデモを禁止し、教員らによる追悼リボンの着用も許さなかった。今回のMERS対応でも同じような対応を繰り返しているのは、朴政権の「持病」の再発にほかならない。
変わろうとしない朴政権に対して、野党は強く反発している。