最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

Don’t Blame Bat Soup for the Wuhan Virus

2020年1月30日(木)17時40分
ジェームズ・パーマー

確かに、野生動物の扱いがウイルス感染につながった可能性は否めない。食材や漢方薬の材料として生きた動物が売られている市場は、今でも中国の大半の都市にある。当初、武漢の華南海鮮市場が新型コロナウイルスの発生源とみられたのも事実だ。中国政府は感染拡大が収まるまで野生動物の取引を禁止すると発表した。

だがここに来て、海鮮市場が発生源ではない可能性も浮かび上がった。新たな発表によれば、分かっているかぎり最も初期に発症した患者は、この市場に行っていないし、市場関係者と接触もしていなかった、というのだ。新型肺炎のウイルスは今のところコウモリ由来と推測されているが、どんな経路でヒトに感染したかは分かっていない。コウモリを食べる習慣とは全く関係がない可能性もある。

中国人の食卓には、アメリカ人がギョッとするような食材も上る。だがそれらの多くは高級な珍味か、北京のレストランの名物料理である動物の「ペニス鍋」のように、精力増進のためのものだ。

そもそも「ある動物を食べる/食べない」の基準は文化によって異なる。動物を一切食べないベジタリアンの主張には倫理的な一貫性があるが、犬を食べるのは残酷だが、豚(ペットにもなる知的な動物だ)は食べていい、という主張は矛盾している(ちなみに筆者は、他人が嫌悪感を催すような物も食べてきた。犬のスープ、昆虫、それにシカゴ風深皿ピザも、だ)。偏見はお互いさまだ。子羊を食べるのは残酷だと言う東アジア人もいる。中国の場合は、地方によっても食習慣に大きな違いがある。それを示すのが、広東地方以外の中国人がよく言う冗談──広東人は「4本足の物ならテーブル以外は何でも、飛ぶ物なら飛行機以外は何でも」食べる、というものだ。

メディアの告発が改善を促す

さらに感染症に関しては、何を食べるかよりも、食材が扱われる環境のほうが問題だ。市場や飲食店の従業員が基準を守るよう訓練されているか、動物との接触を防ぐ柵などがあるか、規制当局や保健当局の検査官が買収されていないか、などである。思い出してほしい。新型インフルエンザのH1N1亜型ウイルスは、ごく普通の食材である豚からヒトに感染したのだ。

中国の抱える問題はそこにある。政府もそれなりの手を打っているとはいえ、中国の食品の安全基準がずさんなことはよく知られている。食品の偽装などのスキャンダルは後を絶たず、下痢や食中毒は日常的に起きている。武漢の市場のように、当局の認可なしで生きた動物を売っている市場も多い。従業員は手袋の使用や手洗いなど衛生管理のイロハすら知らず、生産者は利益を上げるために有害な農薬や添加物を使用する。

中国の状況は特殊ではない。アメリカもかつては似たようなものだった。メディアが盛んに不衛生を告発したおかげで、現在の安全基準が設けられたのだ。それでも今なお肉牛の肥育のための抗生物質の使用や、肉牛の解体処理、食鳥の塩素水洗浄などで、アメリカの安全基準はEUなどの基準に遅れをとっている。

さらに、20世紀初めのアメリカの消費者と同様、今の中国の消費者も強く改善を望んでいる。中国の世論調査では、食品の安全性が最大の懸念だと答えた人が77%に上っているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中