最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

Don’t Blame Bat Soup for the Wuhan Virus

2020年1月30日(木)17時40分
ジェームズ・パーマー

中国では万事に言えることだが、政治的な利害が賢明な政策の導入を妨げている。アメリカではメディアの告発が改革を促したが、中国では習近平(シー・チンピン)国家主席の指導下で検閲が強化されて久しく、メディアは骨抜きにされている。そのため巨大企業とそれを後押しする共産党の既得権益層の利益が国民の利益よりも優先されても、誰も文句を言えない。ジャーナリストの周勍が2006年に中国の食品産業の実態を暴いた画期的な告発本『中国の危ない食品』(邦訳・草思社)を執筆すると、出版前に本文の3分の2が削除された。しかも、この本が海外で高く評価されたために、周は政治亡命を余儀なくされた。

中国が抱える問題の一部は伝統医療の影響力とも無縁ではない。野生動物の多くは漢方薬の材料として取引される。食べるためではなく、薬効のために動物が殺されるのだ。漢方薬の材料にはトラの足やセンザンコウのウロコのように、ただの迷信にすぎないものもあるが、クマの胆汁のように薬効が確認されているが、そのためにクマを飼育して殺さずとも、同じ成分の物質を製造できるものもある。中国政府、とりわけ「中華民族の偉大な復興」を掲げる習政権は、伝統医療の振興に力を入れてきた。政府公認の製薬会社は基準に従い、野生動物の取引を避けているが、伝統医療を称揚するプロパガンダのせいで、人々の間ではいまだに迷信がなくならない。

新型肺炎騒ぎをきっかけに、改革が進み、規制が強化されるなら、まだしも救いがある。だが過去に中国で起きた数々の災害の例に漏れず、悲劇の直後には政府も改革に取り組む姿勢を見せたとしても、結局は権力と利権をめぐる思惑がそれを押しつぶす結果になりかねない。いずれにせよ、不安とパニックが広がる今の状況で、中国人の「ゲテモノ食い」に対する偏見を撒き散らしても誰も得をしない。食の安全を求める中国の人々の声を後押しするほうがはるかに建設的だ。

From Foreign Policy Magazine

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中