最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

Don’t Blame Bat Soup for the Wuhan Virus

2020年1月30日(木)17時40分
ジェームズ・パーマー

ミクロネシアではコウモリは日常食だ BirdHunter591/iStock

<欧米人から見ればゾッとする食習慣でも、それが感染症を生むわけではない。問題は不衛生のほうだ>

若い中国人女性がスープの椀からよく煮たコウモリをまるごと一匹箸で持ち上げ、がぶりとかぶりつく──新型肺炎のニュースが連日世界を騒がせるなか、「発生源はこれだ!」と言わんばかりの衝撃的な動画で、注目を集めた。

デイリー・メール、ロシア・トゥデイなどのメディアや、著名な極右ブロガーのポール・ジョセフ・ワトソンらがこの動画を拡散。ツイッター上では、中国人のいわゆる「ゲテモノ食い」、特に野生動物を食べる習慣が、武漢の海鮮市場から始まったとされる感染症の蔓延を引き起こしたと、轟々の非難が巻き起こっている。

だが断定するのは早い。この動画は武漢で撮影されたものではないし、武漢ではコウモリを食べる習慣はない。これは中国で撮影された動画でもない。

オンライン旅番組のホストWang Mengyunが南太平洋のパラオを訪れ、地元の料理を食べたときの映像だ。コウモリはミクロネシアでは日常的な食材で、これまでもアメリカ人のシェフや旅行ライターらがパラオを訪れ、名物料理のコウモリスープに舌鼓を打ってきた。

中国とは何の関係もない動画を使って中国バッシングが行われた


高まる中国人排斥感情

パンデミックを警戒する声が高まるなかでこの動画が拡散したため、欧米諸国では、欧米人にとっては嫌悪感を催すようなアジア人の食習慣に対する偏見があおられる結果となった。中国人をはじめ、アジア人が昆虫やヘビ、ネズミを食べる動画は、ソーシャルメディアや広告サイトにユーザーを誘導する扇情的なニュースにちょくちょく使われるが、今回はそこに古くからあるもう1つの差別意識が絡んでいる。「不潔な」中国人が感染を広げる、というものだ。

中国人は「想像もできないほど野蛮で不潔で汚らしい」と報じたのは、1854年発行のニューヨーク・デイリー・トリビューン紙。多くのアメリカ人が長年こうした偏見を抱いてきた。今では差別の対象は中南米の難民などに変わったが、中国人への差別意識は一部の欧米人の間に根深く残っている。

こうした思い込みが恐怖心をあおり、差別を助長する。新型肺炎の感染が広がるにつれ、ウイルスの温床となる市場を維持し、病気を広げた責任は中国人にあるという声が高まっている。マレーシアやインドネシアなど、元々中国系住民とイスラム教徒の間で軋轢がある国では、こうした感情は醜悪な対立を招きかねない。欧米、特にトランプ政権下のアメリカでは、政府も一般の人々も一気にチャイニーズ排除に傾くおそれがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中