最新記事

生体ロボット

カエルの幹細胞から生体ロボットが世界で初めて開発 自己再生もする

2020年1月27日(月)17時45分
松岡由希子

プログラム制御可能な生体ロボットが世界で初めて開発された Kriegman, PNAS, 2020

<カエルの幹細胞から作製した生体ロボットが、従来のロボットでも既知の生物でもないまったく新しい人工物として注目を集めている......>

カエルの胚から取り出した幹細胞を用い、人工知能(AI)によって設計された生体ロボットが世界で初めて開発された。プログラム制御可能な生体ロボットという、従来のロボットでも既知の生物でもないまったく新しい人工物として注目を集めている。

カエルの胚から抽出した幹細胞を組み合わせた生体ロボット

米国のバーモント大学やタフツ大学らの共同研究チームは、コンピュータシミュレーションが自動生成した設計をもとに、アフリカツメガエルの胚から抽出した幹細胞を組み合わせ、生体ロボット「ゼノボット」を作製することに成功した。

一連の研究成果は、2020年1月13日、米国科学アカデミーの機関誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で公開されている。

研究チームでは、進化の仕組みに着想を得た「進化的アルゴリズム」を採用し、「ゼノボット」の形状や構造について、バーモント大学のクラスター型スーパーコンピュータ「ディープ・グリーン」で何千パターンもの設計案を自動生成。

さらに、アフリカツメガエルの皮膚と心筋細胞とを組み合わせることを前提として、「一方向に移動する」など、特定のタスクを与え、これらの設計案から最適なものをコンピュータシミュレーションで導き出した。

自己再生でき、ほぼ半分に切られても、自然に修復した

タフツ大学では、アフリカツメガエルから抽出した幹細胞を集め、小型のピンセットと電極を使って細胞を切断し、コンピュータシミュレーションが特定した最適な設計案に沿ってこれらをつなぎ合わせた。人為的に結合させた細胞はやがて一体となって機能しはじめ、皮膚が構造を形成する一方、心筋細胞の収縮機能が設計通りに前方運動をつくり出した。

このように作製された直径650ミクロンから750ミクロンの「ゼノボット」は、胚に蓄積されたエネルギーを用いて数日から数週間にわたって水のある環境で活動した。

また、「ゼノボット」は自己再生でき、ほぼ半分に切られても、自然に修復した。コンピュータシミュレーションによれば、グループを形成して、対象物を一緒に同時に押しながら移動したり、中心部に開けた穴に薬剤を収納して運搬するといったことも可能だという。

放射能汚染の検査や動脈内に蓄積した老廃物の除去まで応用

自己再生能力を備えた生分解性の「ゼノボット」は、放射能汚染の検査や海洋に漂うマイクロプラスチックの収集から、体内への薬剤の運搬や動脈内に蓄積した老廃物の除去まで、従来のロボットでは担えなかった領域も含め、様々な分野での応用が見込まれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中