一〇〇年後に記された「長い二一世紀」の歴史
人々は自らの視覚情報や音声情報を保存し加工して対外的なアイデンティティを示すのに用いるようになった。複数の人間がアイコンや経歴や容姿からなるアイデンティティを受け継いでいく「背乗り」は当初はスキャンダルとなったが、やがて必要に応じて広く行われるようになり、個人名と芸名や屋号や会社名との区別は曖昧になった。情報空間の上では人は「死なない」のであり、ただ忘れ去られるのみである。
二〇世紀末、それまで続いていた「冷戦」という分かりにくい時代が終わり、人々は「冷戦後」として自らの生きる時代を三〇年ほど呼び続けたようである。なし崩しにその呼び名は用いられなくなったものの、代わりとなる時代の名称は考案されなかった。二〇世紀の最後の一〇年と、二二世紀の最初の二〇年を含んだ時代は「長い二一世紀」と呼ばれる。
池内恵(Satoshi Ikeuchi)
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター准教授、アレクサンドリア大学(エジプト)客員教授東京大学先端科学技術研究センター准教授を経て、現職。専門はアラブ研究。著書に、『現代アラブの社会思想』(講談社)、『アラブ政治の今を読む』(中央公論新社)、『書物の運命』(文藝春秋)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)など。
■お知らせ■
アステイオン91刊行記念講演会「100年後の学問と大学」
池内恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)+待鳥聡史(京都大学大学院法学研究科教授)
論壇誌「アステイオン」の編集委員を務める両教授が、100年後の教育・大学について予想しつつ、これからの学問について必要なこと、若い世代に伝えたいことなどを語り合う。
日時:2020年1月24日(金)19:00~20:30
場所:東京大学駒場キャンパス コミュニケーション・プラザ 北館2階 多目的教室4
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『アステイオン91』
特集「可能性としての未来――100年後の日本」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
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