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一〇〇年後に記された「長い二一世紀」の歴史

2020年1月22日(水)19時15分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン91より転載

情報はすべてデジタルデータとして浮遊するように(写真はイメージ) metamorworks-iStock


メディアとコミュニケーションの形に大きな変化が起きた90年代以降を100年後の人たちはどのような歴史として語るだろうか。池内恵・東京大学教授が、予測する情報の人類史。論壇誌「アステイオン」91号の「可能性としての未来――100年後の日本」特集より。

一〇〇年後にも本は読まれているのだろうか。もし読まれていなければ、今書いているこの文章も伝わらないことになる。あるいは異なる媒体で、本ではなく別の形で、この文章も伝達されていくのだろうか。だとするとそれはどういう形によってなのか。

二一二〇年に振り返れば、二一世紀の初頭は、人間のコミュニケーションの媒体がデジタル的なものに置き換えられて、その影響が生活の隅々や、多くの人々のものの考え方にまで及ぶようになった時代の、初期の段階と考えられるだろう。二〇二〇年には、この新しい時代に生まれ育った「デジタル・ネイティブ」の第一世代が成人し社会で活躍を始めた頃である、と将来の歴史家から記述されるだろう。一〇〇年後の歴史家になったつもりで、メディアとコミュニケーションの側面から、今後一〇〇年の人類史を記述してみよう。

メディアを中心とした社会の変化の黎明期は一九九〇年代初頭から始まり、二〇〇〇年前後に明確な形を取った。この頃から急速に、インターネットが世界の隅々に及ぶようになった。すべての活字情報はデジタル化されて伝達され、発信されるようになった。Wifi接続の広がりと、コンピュータの超小型化と、携帯電話の普及と高機能化が結びついて、主流の情報媒体の地位を本から奪った。

Googleなどの検索アプリケーションの普及により、デジタルデータ化されたテキストの海の中から人工知能を用いて毎回情報を掬い取ってくるのが、読書に代わる新たな情報へのアクセスの仕方として定着した。これは師匠の教えを口伝えで聞いていた前近代から、大量印刷された教科書によって学んだ近代に移る過程で経験した変化を、質的にも量的にも超える、大変動の始まりであった。

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