米イラン危機、次の展開を読む――トランプはどんな代償を払ってでも勝利を目指す
NOT AFRAID TO WAG THE DOG
いまトランプが再選する可能性は高く見積もっても五分五分で、弾劾の危機にも直面している。そこへ何の前触れもなく、トランプはイランでも有数の指導者を殺害。メディアは、いつ第三次世界大戦が勃発してもおかしくないかのように騒ぎ立てた。
反トランプ派に言わせればソレイマニ殺害が示すのは、トランプの無知であり(殺害命令を出す前にソレイマニが誰かを知らなかったらしい)、極悪非道とも言える姿勢であり(トランプはウクライナ疑惑から有権者の注意をそらすという目的だけのために全面戦争さえ辞さない)、そして無能である(トランプ政権のリビア、イラン、シリアに対する動きは相互に矛盾しており、アラブ首長国連邦、カタール、サウジアラビア、トルコなどの同盟国は、一貫性のない政権の姿勢に困惑している)と声高に主張する。
これに対してトランプ擁護派は、司令官殺害はトランプが世界をより良い方向に再構築する大胆な指導者である証しだと反論する。彼らの世界観によれば、トランプはアメリカ経済に活気を与え、世界の舞台でアメリカの権威を回復させた、先見の明あるリーダーなのだ。
演説に凝縮された彼の全て
ウクライナの指導者にマフィア顔負けの違法な脅しをかけたとメディアに批判された1カ月後、トランプは世界で最も嫌われていたテロリストであるISIS(自称イスラム国)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディを葬った。そして今回は、最も戦術にたけているとも言える敵を排除することで多くのアメリカ人の死を防いだと、彼らは考えている。
中東に詳しい著名な戦場記者デクスター・フィルキンズは6年前に、ソレイマニについて長い記事を書いた。シリア内戦で活躍し、イラン最高の軍指導者として中東を再編したソレイマニを、フィルキンズは「陰の司令官」と呼んだ。ソレイマニの有能さと冷酷さは伝説となっており、頑強で戦いに鍛え抜かれた中東のリーダーらしい精神の持ち主だった。