米イラン危機、次の展開を読む――トランプはどんな代償を払ってでも勝利を目指す
NOT AFRAID TO WAG THE DOG
ソレイマニの葬儀には数万人が押し寄せた(1月6日、テヘラン) MORTEZA NIKOUBAZLーNURPHOTO/GETTY IMAGES
<軍事的な緊張は沈静化に向かったように見えるが、今回の危機はトランプの危険度を改めて浮き彫りにした。本誌「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集より>
ちょっと懐かしい映画が、今回の騒ぎを説明付けるカギになるかもしれない。その映画とは、1997年公開の風刺的コメディー『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』。ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンが共演し、予言的な作品として絶賛された。
粗筋はこう──選挙戦を控えた大統領のセックススキャンダルから国民の目をそらすために、政界のもみ消し屋がハリウッドの敏腕プロデューサーと手を組み、アルバニアとの戦争をでっち上げる。
封切りから1カ月後、映画は現実となる。当時のビル・クリントン大統領と若いインターンのセックススキャンダルが発覚。しかも98年8月に、クリントンはスーダンの製薬工場をミサイル攻撃した。
さらにクリントンは、弾劾訴追採決直前の98年12月にイラクを空爆。99年春には、映画の中では嘘の戦争相手だったアルバニアと国境を接する旧ユーゴスラビアを空爆した。
この映画が長いこと愛されたのには大きな理由がある。反クリントン勢力が、大統領は自分の不道徳な行為から世間の目をそらし、その地位を守るために、愛国の名の下にアメリカ人を結集させるという「ワグ・ザ・ドッグ」(主客転倒の意)な行為をしていると非難し続けたことだ。
イラン革命防衛隊の精鋭「クッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を殺害するというドナルド・トランプ米大統領の衝撃的な決定も、彼が下院で弾劾訴追された直後であり、上院での弾劾裁判の直前だ。『ワグ・ザ・ドック』は製作から20年以上たっても全く古びない。
政治が芸術を模倣するという皮肉な現象は、これだけにとどまらない。リアリティー番組のスターだったトランプは2011年から12年にかけて、バラク・オバマ大統領(当時)が12 年11月の大統領選で再選を果たすためにイランを攻撃するだろうと執拗に主張していた(実際には行っていない)。
そして今、自身が再選を目指すトランプは、支持率が低下するなかでアメリカの最大の敵に対し、力と精度を誇る強力な殺人兵器であるドローンを差し向けた。なんとも眉唾もののタイミングだ。