最新記事

中国

「空白の8時間」は何を意味するのか?──習近平の保身が招くパンデミック

2020年1月27日(月)12時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そのため習近平は1月22日にフランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相などと電話会談し、今般の新型肺炎の対策について、「中国は感染発生以来、予防制御の措置を周到に行い、WHOなどにも速やかに情報を提供している」したがって中国は「国際社会と協力して対策を取る考えである」ことなどを強調している。

これは、「したがって、どうか今般の新型コロナウイルス肺炎の発生と流行に対して"緊急事態宣言"をしないでくれ」と、発言力のある関係国に頼んだことを意味する。

スイスにおける会議の開始時間は日本時間午後8時頃。

武漢と東京の時差は「1時間」。

したがって武漢時間の1月22日午後7時から会議が始まるという計算になる。

22日真夜中に封鎖令を通告しても、もう遅いのだが、フランスのマクロン大統領と習近平国家主席との間の電話でもあったように、おそらく「WHOとは緊密に連絡し合っている」のだろう。だから、もうすぐ封鎖令を出すこともWHO事務局には「情報提供」しているはずだ。会議は長引いたようなので、滑り込みでギリギリ間に合ったのだろう。

結果、習近平はWHOに「緊急事態宣言」をさせないことに成功している。

日本時間の1月23日、WHOのテドロス・アダノム事務局長は「緊急事態判断を保留する」と、記者会見で発表した。つまり「緊急事態宣言」の先延ばしをさせることに習近平は成功したのだ。すなわち、「封鎖令も出して、きちんと新型肺炎の感染を防ぐための予防制御をしていますから緊急事態宣言を出す必要はありません」というシグナル発信が功を奏したことになろうか。

もしもここで「中国は緊急事態にある」などということを宣言されたら、米中覇権争いは中国にとって壊滅的打撃を受けるだろう。それを避けるためにも、習近平は必死で「奥の手」を使ったと推測される。

習近平とWHO事務局長との関係

その相手こそが、このWHOのテドロス・アダノム事務局長だ。

彼はエチオピア人で、習近平政権になってからエチオピアとの蜜月は半端ではない。2013年6月14日、習近平国家主席は訪中したエチオピアのハイレマリアム首相と北京の人民大会堂で会談し、2014年07月9日にはエチオピアの当時のムラトゥ大統領と同じく人民大会堂で会談している2017年5月12日にはやはり人民大会堂でエチオピアのハイレマリアム首相と会見。今日まで李克強のエチオア訪問など枚挙に暇がないが、近くは、2019年に4月24日に習近平国家主席は訪中したエチオピアのアビー・アハメド首相と人民大会堂で会見している

今ではエチオピアへの最大投資国は、言うまでもなく中国である

2017年7月からWHOの事務局長になったテドロス・アダノム氏はそれまで外務大臣を務めていた。習近平との接触は長い。どれだけ懇意にしているか計り知れないほど入魂の仲なのである。そして緊急事態宣言の最終決定権はWHO事務局長の手の中にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中