最新記事

中国

「空白の8時間」は何を意味するのか?──習近平の保身が招くパンデミック

2020年1月27日(月)12時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

「通告」と「実行」の時間差「8時間」は何を意味するのか?

こんな通告を知って、武漢市を逃げ出さない方がおかしいくらいだ。逃げ出せる財力と脱出先のある者は、封鎖される前に逃げ出すに決まっているだろう。ましていわんや春節を控えている。30億人の大移動が始まると中国政府は早くから言っていた。事実、この間に数十万人の武漢市民が武漢市を脱出したと、中国のネットは一時燃え上がった。次々に削除されているが、中国大陸外の中文メディアには「8時間の間に数十万の武漢市民が脱出した」という情報が数多く残っている。

空白の「8時間」を追え!

なぜ武漢市はわざわざ「さあ、脱出するなら今だよ!」というような通告の仕方をしたのか。伝染が拡大するのを本気で防ぎたいと思うのなら、こんなことはしないはずだ。

私は1947年から48年にかけて、長春において中国共産党軍(八路軍)による食糧封鎖を受けている。封鎖を事前に知らせるどころか、封鎖は気づかれないようにジワジワと迫ってきた。気が付いたら長春市全体が鉄条網で包囲され、市民は長春市から出られないようになっていたことを知った。長春市内にいる国民党の一派(正規軍から差別待遇を受けていた雲南60軍)が共産党軍側に寝返って長春は48年10月に陥落したが、その間に餓死した中国人一般庶民は数十万に及ぶ。

長春食糧封鎖という経験と中国政府の事実隠蔽に関して生涯をかけて闘っている私にとって、この「空白の8時間」は「あり得ない措置」なのである。

「なぜだ?」「何があったのか?」を、ここのところほとんど寝ずに追跡した。

おまけに1月24日付のコラム<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>に書いたように、武漢市レベルの封鎖となったら、中央政府・国務院の決定がある。だからこそ、武漢市政府の通告とほぼ同時に新華網の通知がネットで公開されている。それも真夜中に!

国務院が封鎖の決定を出す際の法律的根拠を、さまざまなケースに分けて明記した情報もある。

1月24日付のコラムで書いた武漢市政府の、あの救いがたいほどの「愚かしさ」のせいかとも思ったが、なぜ武漢市政府がそこまで愚かしいのかを追跡しても「これだ!」と合点するような因果関係には遭遇せず、むしろ今度は「なぜ新華網が真夜中に封鎖通告を発布したのか」という事実に考えが集中した。

そこでハッとしたのがWHO(World Health Organization=世界保健機関)との関係だった。

WHOの緊急委員会開催に時間を合わせていた!

今般の新型コロナウイルス肺炎の発生と流行が「緊急事態に当たるか否か」を協議するため、WHOの緊急委員会が、日本時間の1月22日午後8時頃からスイスのジュネーブで開催されることになっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、10月3.6%に鈍化 予想と一致

ビジネス

エア・インディア、中国・新疆ウイグル自治区上空の飛

ビジネス

東京海上、純利益予想を下方修正 外貨間為替影響やア

ビジネス

農林中金、4ー9月期の純利益846億円 会社予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中