麻薬都市メデジンがスマートシティーに──南米版ルネサンスの軌跡
The Medellín Miracle
残りを補うために市が目を付けたのがEPM(メデジン市公益企業)だ。同社はメデジンで水道やエネルギー、通信、廃棄物管理といった公益事業を行うだけでなく、コロンビア全域、さらに中南米各地でも民間企業と競合して事業を行っていた。EPMは最終的に、市の予算の年間4億ドル増に貢献し、市はこの増収分を貧困対策に集中させた。南米では普通、開発・サービスに割り当てる予算は全体の4分の1だが、メデジンの場合は2000年代前半以降、平均で予算の半分以上だ。
1990年代半ばの住民同士の語らいと専門家パネルから生まれた多様なイニシアチブは、実現まで数年から数十年かかった。1995年にはロープウエー「メトロカブレ」などの提案や調査が始まったが、目に見えて成果が出てきたのは2000年にルイス・ぺレスが市長に選出されてからだ。
ペレスは公共交通システム「メデジンメトロ」(市とアンティオキア県が共同出資)を説得してロープウエーの建設費を市と分担させた。直ちに建設が始まり、2004年に開業。貧困層が暮らす山沿いから市中心部にへの通勤時間は2時間から20分程度に短縮された。最初の路線は1日3万人が利用、その後さらに4つの路線が運行を開始している。
メデジン市長の任期は1期4年までと定められている。ペレスは2004年に市長の座を、数学教授で建築家を父に持つセルヒオ・ファハルドに譲った。ファハルドは市長選で市内の最貧困層の家庭を1軒ずつ回り、新プロジェクトへの支出については住民に重要な決定を任せると約束。その公約を守り、就任後も支出の優先順位について頻繁に住民たちの声を聞き、それに従った。
住民らの要望に沿って、ファハルドは教育制度にテコ入れし、革新的教育方法に重点を置いた専用施設で教師2万人を対象に追加研修を実施。今では全ての子供が、文化、科学、テクノロジー、語学など放課後のプログラムを利用できる。未成年者犯罪防止イニシアチブは年間何千人もの若者を更生させ、大学進学率向上を図る取り組みによって何万人もが市内の大学や技術訓練センター30校のいずれかに進学した。
ファハルドは医療改革にも取り組んだ。特に子供に重点を置き、子供とその家族向けの健康・栄養サービスも提供する託児所を開設した。
ファハルドは文化面の向上を目指すプロジェクトにも住民らの支持を取り付けた。市は40の公立公園の建設・改修など、最終的に約370万平方メートルの多目的スペースを増設した。
それだけでなく、スペイン図書館公園の建設も認可。緑地に囲まれた巨大で現代的な図書館で、山頂の同市初のロープウエーの駅付近に建てられている。貧困地域に程近いこの公園は、川沿いの幹線道路を約80キロにわたって改修した緑豊かな遊歩道と共に、世界中から観光客を引き寄せている。ファハルドは世界有数の人気を誇る科学博物館の創設も指示。主なスポンサーは地元企業だ。EPMは2つ目の大型図書館を建設した。
彼は2007年末に退任。だがその後も彼のイニシアチブと地域主導方式への支持は根強く、以後、政治家が選挙に勝つにはプロジェクトの継続を約束することが不可欠になった。