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中南米

麻薬都市メデジンがスマートシティーに──南米版ルネサンスの軌跡

The Medellín Miracle

2019年12月6日(金)17時20分
デービッド・フリードマン

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改革前の1979年頃のメデジン郊外の村 GYSEMBERGH BENOIT-PARIS MATCH/GETTY IMAGES

「メデジンのスマートシティーとしてのビジョンは、超近代化と自動化を目指す通常のパラダイムと一線を画す」と、メデジン大学でスマートシティー研究を先導するロベルト・エネヘ教授は言う。「町の未来に関するより人間中心的なビジョンだ」

そのビジョンが生まれたのは、山沿いの貧しい犯罪多発地区だった。こうしたスラムではかつて、麻薬王パブロ・エスコバルが支配する麻薬カルテルとつながりのあるギャングたちが麻薬取引を行い、殺人の指令を伝えていた。だが1993年当時、メデジンの暗黒時代は終わりを迎えつつあった。カルテルは崩壊しつつあり、エスコバルも殺された。

この年、数十人の市民が小さな借家に一時的に引っ越すことができた。ギャングの構成員ではなく、普通の地元住民だった彼らに対し、政府指導者や学識経験者、市民団体や企業経営者らが協力して住居を提供したのだ。住民たちは本を持ち込んでミニ図書館を作った。本を読み、リラックスし、そして語り合うためだ。主な話題はメデジンの再建だった。

この語り合いの場から出てきたものを含むさまざまなアイデアが、メデジンを変える野心的な計画の基礎を形成した。

「自然災害の後には住宅を再建するが、私たちの場合は社会的災害の後に社会そのものを再建していた」と語るのは、メデジンにあるサントトマス大学建築学部のホルヘ・ペレス・ハラミジョ学部長。2000年代に2人の市長の下で都市計画の責任者を務めた人物だ。「市長たちはわれわれに、一度も何かをしろとは言わなかった。市民にやれと言われたことをやるのが市長の仕事だと彼らは心得ていた」

市民からの要望はたくさんあった。大半の住民が上下水道や学校といった基本的なインフラもなしで生活していた。子供たちの遊び場もなかった。雨が降れば洪水や地滑りが起き、住宅どころか村ごと押し流されてしまう。山沿いの地区から雇用のある市の中心部に出るには、バスを乗り継いで片道2時間もかかった。

安全だと感じている住民もいなかった。カルテルが崩壊してもギャングと犯罪はなくならなかった。解決するにはスラム街に武装警官を大勢配備すべきなのは明らかだった。だが住民たちは語り合いの場を通して市に掛け合い、別のアプローチを採用させた。若者を犯罪に走らせている貧困や孤立や、チャンスの欠如を軽減する方法だ。

「地域主導型」に根強い支持

「彼らは街に銃を増やす代わりに、貧困地域に投資し、住民を一級市民並みに扱うことにした」と、インターネットを活用して利用者のニーズに合った最適な移動を提供する企業Iomob(本社バルセロナ)のボイド・コーエンCEOは言う。「そうすれば人生が変わる」

メデジンを救うプログラムの費用はどうやって賄うのか。近年はカルテルの悪いイメージが強かったものの、経済については石油業界や衣料品業界など堅調な要素もあった。メーカーは都市が再生すれば投資の見返りがあると信じて、税金の大半を負担した。

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